第22章 邂逅
いよいよインターハイ予選の日がやってきた。昨日はなかなか寝付けなくって、少しだけ眠い目をこすりながらバスの待つ学校へと向かう。
校門に入るとすぐに、マイクロバスが目に入った。バスの近くには黒いジャージ姿がすでに何人か到着しているようだった。今日はこのバスに乗って、試合会場までみんなで移動するらしい。
「おはよう、美咲ちゃん」
「おはようございます!潔子先輩」
挨拶を交わして、しばらく潔子先輩と立ち話をしていると黒いジャージがどんどんバスの周りに集まりだした。みんな早めに学校に着いて、一度部室へ寄っていたようで、それぞれの学年ごとにまとまって姿を現した。
「はざまーす」
「おはよう日向。あ、酔い止め飲んどく?」
カバンから酔い止めのトローチを取り出して、日向に振って見せた。カラカラと音がしてトローチが存在を主張する。
「えっ」
「前バスに乗った時、戻しちゃったんでしょ?眠くならないタイプの持って来たから……」
「な、なんで黒崎さんが知ってるの?!」
砂埃をまき散らしながら、日向が後ずさった。日向が緊張で盛大に車内で戻してしまったことは、以前先輩達から聞いていたから、事前に準備してきたのだけど。
「日向、今日は俺もバッチリ用意してきたぞ!」
田中先輩がエチケット袋を手に、日向に声をかけると、日向は黙ったまま恥ずかしそうに俯いてしまった。本人は気にしていたのかもしれない。
いつもあっけらかんとしているイメージがあったから、私もついみんなの前で酔い止めの話をしてしまったけれど、こっそり本人に言えばよかったな、と今更ながら思った。
試合前に部員の志気を削ぐようなことをしてしまったかもしれない、と反省する。
「もう吐きませんよ!!俺!!」
「恥じることはない!存分に吐きたまえよ!」
「今日は大丈夫ですって!」
いつもの調子で田中先輩とやり取りし始めた日向を見て、少し安心した。今日はどうやら酔い止めの出番もなさそうだ。
「忘れ物はないかな?出発するよー!」
武田先生の声に、澤村先輩が「お願いします!」と声を出し、それに私達も続いた。
三年生から順にバスに乗り込んでいき、私と潔子先輩は一番最後に乗車する。
一番前の席に潔子先輩と二人で腰掛けた。荷物を下ろして一息つくと、ふと横の潔子先輩が耳打ちをしてくる。