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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第21章 精一杯のエール


 このまま心臓が破裂して死んでしまうのではないか、なんて頭の悪い事をつい考えてしまうくらい、私は旭先輩のことが好きみたいだ。

 これ以上心臓がもちそうにないな、と思いながら歩みを進めてようやく家の前まで来た。
玄関に仁王立ちしている人影が目に入る。今日は少し早めに部活を切り上げていたから、そんなに遅い時間ではないはずだけれど。腕時計を確認して、玄関の人影に目をこらす。

「さっさと帰りやがれ!!こんな時間まで出歩いて、明日1回戦負けでもしたらぶっ殺す!!」

 いきなり飛んできた怒号で、人影が誰なのか分かった。旭先輩に最近変に絡んでいる兄だ。
相変わらず乱暴な言葉を放っているが、これは兄なりのエールだと気づく。さすがに長年この人と兄妹をやってるだけあって、兄の隠された本音を見通すのは難しくない。

「旭先輩、ごめんなさい。暴言ですけど、これ兄なりの励ましの言葉です」
「えっ、そうなの……?」

 旭先輩は半信半疑といったところだ。それはそうだろう、『ぶっ殺す』なんて言われてそれが応援の言葉だと思う人間はそういないだろう。

「違ェ!断じて!」
「ほら、あれも照れ隠しですから。兄は旭先輩のこと認めてるらしいです」
「認めてるとは言ってねぇ!『一応』認めただけだ!!」
「ね。認めてるって」

 旭先輩は兄の怒号に少し怯えてはいたけれど、兄に「ありがとう」とお礼を言ってくれた。
それに対して兄はどこまでも素直じゃなかった。

「お前の為じゃねぇ!うちの妹が悲しむのが嫌なだけだかんな!!」
「うん、悲しませないように頑張るよ」

 旭先輩も少しずつ、兄の素直じゃない暴言を理解しているようだった。二人で話したこともあるって言っていたから、案外兄と旭先輩、馬が合うのかもしれない。

「……っ、お、おう。せいぜい頑張れ!!みっともない負け方だけはすんなよ!!」

 兄も、少しだけ。ほんの少しだけだけど、旭先輩に素直にエールを送ってくれた。兄なりの精一杯のエールは、しっかり旭先輩に届いたらしい。

「分かった。約束する」

 力強く頷いた旭先輩はとてもカッコよく見えた。いつもの優しい雰囲気も大好きだけど、真剣な顔をする時の旭先輩も、大好きだ。

「じゃあな、黒崎。また明日!」
「はい!おやすみなさい」

 曲がり角に旭先輩消えていくまで、兄と二人で先輩の背中を見送った。
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