第21章 精一杯のエール
その先の言葉を、旭先輩はうまく言えないようだった。
「あー」だとか「うー」だとか、間投詞ばかり口にして、肝心の言葉は出てこなかった。
「とにかく、避けられてるんじゃなくって良かった」
ふにゃりと笑うその顔は、本当にずるいと思う。その笑顔を見ただけで、心臓の音がうるさくなってしまう。他意のない笑顔だから、余計に胸が高鳴るのかな、なんてことを考えた。
「避けたりなんか……」
するはずないじゃないですか。大好きな旭先輩を。
言ってしまいたかったけれど、素直に口にするには恥ずかしすぎて、言葉尻を濁したまま旭先輩から視線をそらす。
「……いよいよ明日ですね」
「うん。あっという間だったなぁ、ここまで」
「私が試合に出るわけじゃないけど、もうドキドキしてます」
私にとって初めての公式戦。一つでも落としたら即終了の予選。そんな経験のない私にとっては、明日から始まる試合は不安でいっぱいだ。未知の世界だというのもあるだろうけれど、強豪ひしめくブロックで烏野はどこまでいけるのだろうか。
旭先輩がバレーを離れるきっかけになった伊達工も同じブロックにいるらしいし、一体どんな試合が繰り広げられるのだろう。
想像するだけで、心臓はどくどくと早いリズムを刻みだす。
「はは、俺の代わりにドキドキしてくれてるんだよ、きっと」
「旭先輩は、緊張しませんか?」
「いや、するよ?するけど……これがあるから」
言って旭先輩は握りしめていたストラップを目の前にぶら下げた。
「一針一針、想いのこもったこのお守りがあれば百人力だよ」
そう言って旭先輩は、本当に嬉しそうに笑うのだ。お世辞でもなんでもなく、心からそう思ってくれているのだろう。
先ほど大泣きしていた旭先輩の姿が思い浮かんで、胸がぎゅっと苦しくなった。
「嬉しいです。そんなに喜んでもらえるとは思っていなかったので」
「嬉しいよ。こういうの貰ったの、初めてだし。それに何より、黒崎と清水の気持ちがこもってるしな」
「ありがとうございます。そんな風に言ってもらえて」
「…明日スパイクたくさん決めるから。応援、頼むな」
とん、と優しく肩に触れる旭先輩の手。そこから熱が一気に全身をかけ巡り、心臓の鼓動を加速させる。胸が苦しい。
ただ、ほんの少し触れられただけなのに。こんなに苦しくなるなんて。