第21章 精一杯のエール
おいでおいでと手招きされて、私は潔子先輩と顔を見合わせた。
しばし顔を見合わせたまま困惑していた私達に、部員達から再度輪に加わるように催促の声がとんできた。
「……いこっか」
「……はい!」
潔子先輩と二人、ほぼ出来上がっている輪の中に加わる。
旭先輩と菅原先輩の間に二人分のスペースが空けられていて、先輩達に促されるまま、私達はそこに収まった。
旭先輩の泣きはらした目が細くなって、その表情に胸がドキリとする。そっと背中にまわる旭先輩の大きな手の熱が、じわりと背に広がっていく。私もそっと旭先輩の背に手を回す。身長差があるから、旭先輩の背に手を乗せるのは少しきつかったけれど、今はそれよりも別のところに意識がいく。
旭先輩の熱が、すぐそこにある。ジャージ越しなのに、触れられている部分が熱い。心臓の飛び跳ねる音がみんなに聞こえてしまうのではないかと思う。
円陣の中の顔をぐるっと見回して、少しでも旭先輩から意識をそらそうと試みた。けれど、見回し終わって、すぐ横に旭先輩の顔があるのが目に入って、余計に意識することになってしまった。
視線を感じたのか、旭先輩と目が合う。
すぐにそらしてしまったけれど、顔の熱を、心臓の音を、気取られていないか心配だ。
「……二人の応援、無駄にすんじゃねぇぞお前ら!目の前の試合、全部勝つ!!いくぞ!烏野ーっ!!」
澤村先輩の掛け声に、部員達が力強く頷いて、大きく息を吸う。
「ファイ、オー!!!!」
体育館に響き渡ったみんなの声は、私の胸にも大きく響いた。隣の潔子先輩もきっとそうなのだろう。心なしか、眼鏡の奥の瞳が揺れているように見えた。
たとえ彼らと共にコートに立って戦えなくとも、彼らは私達を輪の中に、同じバレー部員として、受け入れてくれているのだと強く感じることが出来た。
自分を受け入れてくれる場所があることが、私にはひどく嬉しいことだった。
触れてきた時と同じように、そっと旭先輩の熱が離れて行く。名残惜しく思ったからか、もう旭先輩の手はそこには無いのに、背中には先輩の熱が残ったままな気がする。
なんだか熱に浮かされたような気分で、私は体育館を後にした。