第21章 精一杯のエール
他の人達も興味深そうにその小さなストラップを覗き込む。
「私と潔子先輩で作りました。お守り、みたいなものです」
三年生から順に、ストラップを手渡していく。
旭先輩に手渡す時は、手が震えてしまった。さっきみたいに、涙を流さなくてもいい。だけど、少しでも喜んでもらえたら嬉しい。
そう思っておそるおそる先輩の顔を見上げると、旭先輩は微かに震えていた。
唇を思いっきり噛みしめて、眉間には皴がいっぱい寄ってしまっている。
まるで泣き出しそうなのを堪えているみたいで、私はまさかと思い、まじまじと先輩の顔を見つめてしまった。
「あっ、あんまり見ないで!!泣きそうだから!!」
そう言う旭先輩を隣の菅原先輩と西谷先輩がからかい始める。私にはその光景がどこか遠いもののように感じていた。
きっとさっきの潔子先輩のエールで泣いてしまったからだ。だから涙腺が緩んでいるんだ。
私は必死でそう自分に言い聞かせた。『私だったから』じゃないんだって。自分に都合良く、思いこまないように。
「ありがとう!!黒崎!」
そう言ってくれた旭先輩の目からは、涙が溢れていた。
ぼろぼろと零れ落ちる涙がうつってしまったのか、私の視界はじわじわと滲んでいく。
「なんで美咲ちゃんが泣いてるの??」
菅原先輩の言葉に、自分の頬を伝ったものが涙なのだとようやく理解する。
大きな一粒の涙が零れ落ちたと認識すると、次から次に涙が出てきて止まらなくなった。
涙のワケははっきりしていた。旭先輩に喜んでもらえたのが、この上なく嬉しかったからだ。潔子先輩の時と負けず劣らず、先輩が喜んでくれたのが分かったから。それがとても嬉しかったんだ。
だけどそれを正直に言うのは恥ずかしすぎて、私は止まらない涙のワケを必死で誤魔化した。
「もらい泣きです!!」
それが嘘だと、菅原先輩にはバレバレだっただろう。意味深に微笑んで、菅原先輩はうんうんと頷いていた。
旭先輩はストラップを握りしめたまま、とうとう腕で顔を覆って思い切り泣き出してしまった。その姿を目に焼き付けながら、私は残りのストラップを手渡してまわった。
渡し終えてほっとしていると、澤村先輩が微笑んでこちらを見ていた。先輩は目で「何か言うことはないか」と私に尋ねているようだった。