第21章 精一杯のエール
ああ、ストラップなんかなくても潔子先輩の言葉があれば十分なんだな、って思ってしまった。
潔子先輩はやっぱりすごい。いるだけでみんなの力になれる。たった『がんばれ』その一言だけで、こんなにもみんなの心を動かすことが出来る。
私には、そんな力、無いから。
私は潔子先輩にはなれない。分かってるのに。
初めて潔子先輩を見た時に思った、あの嫌な感情が胸の奥からわき上がってくるような気がした。
―美人は得だ。それだけでイージーモードだ。
同じように私が『がんばれ』って言ったって、先輩達は泣かないと思う。ありがとう、と言ってはくれるだろうけれど、こんなに感動はしないだろう。逆立ちしたって潔子先輩みたいにはなれないんだ。
私も潔子先輩と同じ気持ちのはずなのに。
そんな醜い感情を抱いてしまっていた。そんな思考に陥ること事態、潔子先輩になれないと暗に示しているのだけれど。
「あっ、あともう一つ、あるんだよね?黒崎さん」
武田先生の言葉に、私はハッと現実に引き戻された。
涙にぬれた先輩達が、またくるっと振り返ってたくさんの視線が私に集まる。
皆の顔をさっと眺めて、皆の視線がこちらに向けられていることにさらに意識がいってしまって私は思わず俯いてしまった。
「あっ、えっと……」
言葉がつっかえて、出てこない。なんて言おうか、考えていたのに。
誰も急かしてなどいないのに、気持ちが急いて余計に言葉が出てこない。
手にしていた紙袋をぎゅっと握りしめて、深呼吸を一つする。
目線だけ少し上げると、涙の筋を残したままの旭先輩と目があった。ちくん、と胸が痛む。
さっきの皆の反応を見てしまってから、このストラップを渡すのが怖くなった。私の考えなんて、あの潔子先輩のに比べたら、蛇足だと思われるんじゃないかって、怖くなった。
「黒崎?…その、紙袋の中に何かあるの?」
固まったままの私に助け舟を出してくれたのは旭先輩だった。旭先輩の言葉にこくこくと頷いて、私は紙袋を皆の前に差し出す。
「……皆さんに、お渡ししたいものがあります!」
勇気を振り絞りそう言って紙袋の中を覗き込み、まずは澤村先輩に小さなストラップを手渡した。
「おっ?!」
受け取った澤村先輩は掌の上の小さなユニフォームをまじまじと眺めている。