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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第21章 精一杯のエール


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「い、いよいよですね……」
「うん。なんか緊張するね」

 部活が終わる少し前に、潔子先輩と二人で体育館を抜け出した。紙袋に入れた横断幕と、全員分のストラップ。潔子先輩は横断幕を、私はストラップを手にして、そっと体育館へと戻る。

 ちょうど烏養コーチが、話を終えたところだったようで、澤村先輩が部員達を解散させようとしていた。
私と潔子先輩は慌ててみんなの元へ駆け寄った。紙袋は後ろ手に隠したまま。

 烏養コーチの隣にいた武田先生と目が合って、私達はこくりと頷いた。それに先生もこくんと頷き返し、澤村先輩の解散の声を止めた。

「あっちょっと待って!少し、いいかな!?」

 急にそう発言した武田先生に、皆何事かと先生を見やる。

「ええと、マネージャーの二人から!皆に」

 皆が先生の視線を追って、私達の方へと振り返る。
潔子先輩が恥ずかしそうに紙袋とともに武田先生の方へ歩き出した。
武田先生の横に並ぶと、潔子先輩は俯きながら言った。

「……激励とか、そういうの…得意じゃないので…」

 紙袋から取り出した黒い塊を、武田先生が肩にかついで梯子を上っていく。その後に潔子先輩が続く。
皆何事かと二人の行動を黙って見守っているようだった。

 先生と潔子先輩が黒い塊を勢いよく広げて、二階の手すりから垂れ下げる。
黒い大きな横断幕に、力強く浮かぶ『飛べ』の文字。
それを見た皆の目は輝いていた。

「こんなのあったんだ……!」

 三年生の先輩達も、みな同じように驚いて目を輝かせていたから、この横断幕の存在を本当に知らなかったようだった。

「すっげー!!さすが潔子さん!!いい仕事するッス!!」
「燃えてきたー!!!」

 田中先輩と西谷先輩の反応は、ある程度予想していたものの、やはり激しかった。
喜んでもらえて良かった。私がそう思った時だった。

 二階の潔子先輩が、小さくだったけれど応援の言葉を口にしたのだ。

「……が、がんばれ」

 私がびっくりしたくらいだから、先輩達はもっとびっくりしたんだろう。潔子先輩が下に降りてくるまで、皆微動だにせずに体育館を沈黙が支配した。

 そしてその沈黙の後、皆一斉に泣き出してしまった。
田中先輩や西谷先輩だけでなく、三年の先輩達まで皆。

 そんな先輩達の姿を見た瞬間。私の胸の奥が鈍く痛んだ。
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