第21章 精一杯のエール
いつものように朝練を終えて、教室へ足を踏み入れると、自分の席の周りで賑やかに声をあげるクラスメイトの姿が目にとびこんできた。
「なんか楽しそうだな」
何気なく声をかけると、振り返ったクラスメイトの顔は満面の笑みだった。
「おう!今朝さ、彼女がお守りくれてよ!」
「へぇいいなぁ。あぁ、そっか。お前も明日から予選か」
クラスメイトが見せてくれたのは、黒地に『勝守』の白い文字が入ったお守りだった。雄々しい鷹の姿が金の糸で刺繍されていて、いかにもご利益がありそうだ。
「旭も明日から試合だろ?いいよなぁお前のとこはさ。清水みたいな美人のマネがいてさ。それに今年は可愛い系の子もいるだろ。黒崎さんだっけ?一年の。羨ましいよなぁ、二人も女子マネいてさぁ」
「あ、あぁ……」
清水は一年の時から、みんな美人だと噂していたからそういう話を聞くのは慣れていたけれど。黒崎もそんな風に見られていたとは予想していなかった。
うちはただでさえ清水の存在が大きかったから、よく他の部のやつらに「妬ましい」とふざけて言われることは多かったけど。
そっか、他の奴らから見ても黒崎は「可愛い」んだ。
周りはみんなライバル、そのくらいの心意気でいくべきだと力説していた菅原の顔が浮かぶ。
一気に周りの奴らがみんなライバルに見えた気がして、俺はそんな考えを振り切るように頭を振った。
「お前のとこは、なんかねぇの?マネから」
「えっ、俺のとこ?」
「試合に向けて、なんかもらったりとか」
クラスメイトの言葉に、記憶を振り返ってみる。清水はあまりそういうのが得意じゃないのか、お守りとか励ましとか、そういやされたこと無い気がする。
「うーん…今までそういうの無いからなぁ。今回も特にはないと思うけど」
「そうなんだ。まぁいるだけでも恵まれてるしな!美人女子マネ二人もいたら嫌でも力出んだろ」
「あはは、そうだな」
俺の返事に、「なんだよ自慢すんなよ!」って鉄拳がとんできた。別に自慢したつもりは無かったんだけど……。
俺からしたら、殴ってきたそいつの方が羨ましかった。
俺も黒崎からお守りなんてもらえた日には……嬉しすぎて死んでしまうかもしれない。
鞄の横で揺れている、黒いお守りを俺は羨ましく眺めた。