第20章 ふたりきりの時間
自分の答えが黒崎を傷つけてしまうことはある程度予測していたものの、黙り込んでしまった黒崎を見て東峰は言葉の選び方を間違えてしまったと反省した。
けれど東峰が黒崎に伝えたかったのは、そこではなく。
傷ついてしまった黒崎が納得してくれるかは分からないが、東峰は自分の想いをまっすぐに彼女に伝えることにした。
「でも、家の事情と黒崎自身は別だと俺は思う」
「えっ…?」
「黒崎は、家の事で色々と引け目を感じてしまってるのかもしれない。けど、俺はその事で黒崎のことを色眼鏡で見たりなんかしないよ。まだたった二ヶ月だけど、黒崎がどんなことで笑うのか、どんなことで喜ぶのか、近くで見てきたから。黒崎がどんな人間なのか、少しは分かったつもり。家の事とか、関係なく、俺は黒崎のこと好きだよ」
東峰がそう言い終えて黒崎の顔を見ると、ぽかんとしていた表情がみるみるうちに赤みを帯びて、目が大きく見開かれ、「えっ」と息を飲むように口が開いた。
「えっ、あっ、えっ??!」
黒崎の慌てぶりに、東峰は自分の発言を脳内でぐるりと一周させる。何かおかしなことを言っただろうかと言葉一つ一つをチェックしていった。
最後まできて、ようやく、東峰は自分がとんでもないことを口にしていたことに気が付いた。
「あっ!!?ち、違う!!好きっていうのは、その、人として!!好きって意味で!!そっちの好きって意味じゃなくて」
「あっ、そ、そうですよね…!!すみません、変に動揺してしまって…!!」
「いや、俺こそ変なこと言ってごめん…!」
東峰は深々と黒崎に頭を下げる。
頭を下げて、黒崎から見えないところにきて東峰の顔は「やってしまった」という顔になった。
先ほどの発言の中での『好き』は、確かに黒崎に弁明した通り、『人として好き』の意味での『好き』だった。
だから本当のことを言ったにすぎないのだが、あそこまで力強く『人として好き』だと宣言してしまったことに、東峰は後悔の念でいっぱいになった。
あれでは、黒崎のことを異性として意識していないのだと断言したのと同じだ。
自分の気持ちを伝えるチャンスを自分で潰してしまったのだ。