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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第20章 ふたりきりの時間


 『先輩がいるから大丈夫』それは、黒崎が東峰のことを心から信頼しているからこそ出てきた言葉だろう。
純粋に自分のことを信頼しているから、彼女はそんなことが言えるのだ、と東峰は思った。

 黒崎にそこまで信頼されていることを、東峰は素直に嬉しく感じた。
けれど同時に、彼女が自分の事を人畜無害なものだと思っているような気がして、ちょっぴりへこんでしまったのだった。

「…そっか。でも烏養さんが言ってたように、家族の人が心配するだろうから。…ほら、義明くんなんか心配してそうだし」
「あー……。えっ?あれっ?私、兄の名前言いましたっけ…」
「おととい、義明くんと二人で話をしたんだ」
「いつの間に…!?えっ、どんな話をしたんですか?!」

 黒崎の食い入るような視線に、東峰は思わず後ずさる。
家庭の事、黒崎の事、お互いの見た目の事、そして黒崎へ抱いている東峰の気持ちの事。
最後の事柄だけは、彼女に伝えることは出来ない。

 けれど義明とのやり取りを思い出して、東峰の体温は確実に上昇していた。黒崎に気取られないように、東峰は平静を装った。

「えっと……黒崎の家庭の事情とか、義明くんと同い年だってこととか、お互い見た目で判断されて困るってこととか……」
「家の、事情……。…その、どこまで聞きました?」

 東峰の言葉に一気に顔を曇らせた黒崎は、気まずそうに東峰を見上げて尋ねる。
まだ黒崎は自分に打ち明けるつもりはなかったのかもしれない、と東峰は思いながら、今更誤魔化すわけにもいかず、正直に聞いたことを口にした。

「…お母さんの恋愛で、引っ越しを繰り返してきたって話は聞いたよ」
「そうですか……。……旭先輩、引いちゃったでしょ?家の話聞いて」

 いいや、と東峰の口は開きかけた。
けれど見上げている黒崎の目は、東峰の本心を聞きたいと訴えている。
ここでおざなりな言葉を告げてしまったら、彼女の目に失望の色が広がる気が、東峰にはしていた。

「…正直、驚いた。そんな家庭があるんだなって」

 黒崎の眉間には深いしわが刻まれた。口は真一文字にひき結ばれている。
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