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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第20章 ふたりきりの時間


 横で肉まんにかぶりつく黒崎の姿に、東峰の目は優しく垂れていった。

 肉まんを食べ終えて、商店で購入した飲み物を口にしながら、東峰と黒崎は談笑を始めた。
けれどすぐに背中に刺さるような視線を感じて、東峰はちらりと後ろを振り返る。

 雑誌越しに、じーっとこちらを見ている烏養の姿がそこにはあった。
東峰と視線が合うと、烏養はくわえていた短くなった煙草を灰皿に押し付けた。

「……いいよなぁ、お前らは」
「…?」

 雑誌を脇に置いて、烏養はレジの台にどっかりと頬杖をついた。烏養の視線は、東峰に、というより東峰の頭に注がれているようだった。

「俺らの頃は、みんな坊主って決まりだったからよ。お前みたいな長髪なんてできなかったんだよなぁー。まぁー坊主はモテないモテない!サッカー部には長髪でモテる奴が多かったから、妬ましかったぜ……」

 突然始まった烏養の昔話に、東峰と黒崎は、「へぇ」とか「そうだったんですか」と答えるしかなかった。

「……という訳で、俺は今、お前を妬んでいる!!さっさと帰ってちゃんとしたメシ食え!!いつまでもくっちゃべってねぇで帰れ帰れ」

「ええっ??!」

「…冗談だ。けどもう遅いからな。早く帰ってメシ食って寝ろ。明日も朝練あんだろ。それに東峰、女子をあんま遅い時間まで連れまわすんじゃねぇ。親御さん心配すんだろうが」
「っ、はい」

 烏養が冗談だったのか半分本気だったのか定かではなかったが、ちらりと見やった時計の針は20:30を指していて、確かにいつもより遅い帰宅時間だった。

「ごめん、黒崎。配慮できなくて」
「いいえ!私も時間のことすっかり忘れてましたし!」

 烏養に頭を下げて店を後にし、東峰達はまた二人きりの道のりを歩き始めた。
先ほど言われた時間のことが気になって、東峰の足は少し早足になっていた。
隣の黒崎もそれに倣っていつもより大きめの歩幅で歩くのだが、東峰のそれにはかなわず、少しずつ距離が開き始める。

「あっ、ごめん!ちょっと急ぎすぎた!」
「やっぱり旭先輩の一歩は大きいですね」
「ごめんね。時間、気になって」
「ふふ、そんなに慌てなくてもいいですよ。だって先輩が一緒なんだから、大丈夫です」

 黒崎の一言に、東峰は心臓を鷲掴みにされた気分だった。
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