第20章 ふたりきりの時間
普段何かとお世話になっている坂ノ下商店のこの一角は、烏野高校生の憩いの場でもある。
学校帰りの学生達がひっきりなしにやってきては、このテーブルと椅子が空くのを待っていたりする。
今日は他の学生達と帰宅の時間がズレていたからか、テーブルは無人のままで東峰と黒崎を迎えてくれた。
隣同士に腰掛けて荷物を床に下すと、二人の視線は待望の肉まんへとそそがれた。
「よっと……あっ」
きっちり半分に割ろうと試みた東峰だったが、結果は誰が見ても明らかなほど、大きい方と小さい方に別れてしまった。
考える間もなく、東峰は大きい方を黒崎に差し出した。
けれど黒崎は目を丸くして首を振る。
「私、そっちの肉まんがいいです」
「えっでもこっち少ないから」
「私にはちょうどいい量なので」
にこっと黒崎が笑うものだから、東峰もつられて笑ってしまう。けれどサイズに違いが出てしまった責任をとらないと、とどこか東峰も意固地になってしまった。
「いや、俺がこっち食べるから」
「あっ」
黒崎が肉まんを受け取る前に、東峰は小さな肉まんをぱくりと口に入れてしまった。
残された大きな肉まんが黒崎の元にやってきた。
しばし無言で肉まんを見つめていた黒崎は、ふと顔をあげたかと思うと、おもむろに手にした肉まんを半分に割った。
綺麗に半分に別れた肉まんの片方を、東峰の前に差し出して、黒崎は微笑んだ。
「はい、旭先輩。半分こ」
「…っ」
小首をかしげて微笑む黒崎に、東峰の鼓動は早くなっていった。『好き』というフィルターがかかっているからだろう、余計に黒崎の仕草が可愛く見えて、東峰は心の中で顔をおさえて転げまわっていた。
「黒崎の分、無くなるから…!俺もう食べちゃったし」
「でも、ほら」
黒崎が耳に手をあてて、耳を澄ませるような仕草をするとぐるぐると聞こえてきたのは東峰のお腹の音だった。
「やっぱりさっきのじゃ足りないですよ。ね、食べてください」
「ありがとう……」
今度は素直に受け取って、ゆっくりと噛みしめるように黒崎に手渡された肉まんを頬張った。
先ほど食べた肉まんより美味しく感じるのは何故だろう。そんなことを東峰は考えていた。