第20章 ふたりきりの時間
この二人がいるということは、後に続々と烏野男子バレー部の面々が入ってくるのだろう、と思っていた烏養の予測は大きく外れることになる。
「あ?今日はお前ら二人だけか?」
いつまでたっても聞こえてこない、いつもの喧噪。首をかしげた烏養が店の外に目をやるも、人っ子一人、影すら見えなかった。
「…はい」
何も責めているわけではないのに、どこか居心地悪そうにそう返事する東峰に、烏養は頭を掻いた。
「あ、そ。…で、何買うんだ?」
つとめて二人の関係に興味はない風を装って、烏養はぶっきらぼうに言う。内心からかいたい気持ちに駆られていたが、妙にぎくしゃくしている雰囲気の二人の様子に、それとなく烏養は二人の現状を察して追及することを諦めた。
「肉まんを二つください」
「悪ぃ、肉まんあと一つしかねぇわ」
東峰と黒崎がレジ横に並ぶスチーマーを見れば、お目当ての白い塊は寂しそうにぽつんと一つだけ。
二人は顔を見合わせて、同じタイミングでぱちりと瞬きをした。
「は、はんびゅんこっ、するっ?」
言って東峰の顔は真っ赤になった。大事なところで噛んでしまったからなのか、肉まんを半分こするのが恥ずかしいと思ったのか。多分、そのどちらも正解だった。
勇気を振り絞った一言が、カミカミになってしまった東峰の目線は段々と地面へ降りていく。
黒崎が答えを返してくれるまでの時間が東峰にはやけに長く感じられた。
「旭先輩、それじゃお腹ふくれないでしょ?」
噛んでしまったことには触れないでいてくれる黒崎の優しさが東峰の胸に響いた。
「でも、一緒に食べようって誘ったの、俺だし。黒崎だってお腹すいてるだろ?」
「私は大丈夫ですよ?」
そう言った黒崎だったが、体は正直なもので。
目の前の誘惑につられたのか、くぅ、と小さな黒崎の本音が聞こえてきた。
「……」
「……ね?半分こしよう」
「…すみません…」
今度は黒崎が顔を赤くさせて、視線を地面へと落とした。そんな姿が可愛く思えたのと、黒崎と彼氏彼女っぽいことが出来るのとで、東峰の頬は緩みっぱなしだった。
「100円な。まいど」
「ありがとうございます」
烏養から肉まんを受け取ると、二人は商店の一角にある簡素なテーブルへと向かう。