第20章 ふたりきりの時間
インターハイ予選三日前。
それまで部活が終わると足早に帰宅していた女子マネージャー二人の姿は、今日はまだ体育館に残っていた。
部活後の自主練の参加は強制ではない。それはマネージャーも同じだった。
だからそれまで部活終了後にすぐに帰宅していたマネージャーの二人に文句を言う者はいなかった。
しかしやはり女子マネがいるのといないのとでは練習における力の入り具合が違うようで、特に田中と西谷においては目に見えてやる気がみなぎっていた。
「っしゃー!!」
「オラオラオラァ!!」
無駄に体力を消耗しそうであるのに、大きな声を張り上げてはボールに向かっていく田中と西谷。
彼らが興味を引きたいのは、女神と崇める清水潔子その人であった。しかし悲しいかな当人は全くの無視で、代わりに主将の澤村の気を引き付けたのだった。
「お前らうるさい!無駄に叫ぶのやめろ!!」
澤村の怒号が飛び、それまで威勢よく飛び跳ねていた二人は大人しくなった。
「元気だなぁ、二人とも」
「今日は潔子先輩がいるから余計、元気そうですね」
「あー、確かにそうかも。あいつら本当に清水のこと好きだからなぁ…」
体育館の片隅で、どこかのほほんとした雰囲気が漂っていた。自主練中も賑やかな部員達を眺めて穏やかな笑顔なのは、東峰と坂上の両名だ。
「でもなんかあいつらの気持ちも分かるかも。清水と坂上がいると、部の空気が変わるんだよなぁ」
「そうですか?」
「うん。何がどう違うかって聞かれると、うまく答えられないけど」
はは、と笑って東峰は坂上を見やった。
本当は、坂上がそばにいてくれるだけで全然違うんだ、と東峰は心の中でひとりごちた。
坂上がそばにいるだけで、東峰の心は温かくなり、そこからなんとも形容しがたい力が湧いてくる気がするのだ。
それは明らかに東峰が坂上に恋心を抱いているからに他ならなかったが、そんな陳腐な理由付けを東峰はしたくないと思った。
恋だとか愛だとか、そんな言葉では語りつくせない想いが、自分の胸の中に渦巻いていることを、東峰は感じ取っていたのだ。