第19章 その男、シスコンにつき。
「こんな成りしてっから、仕方ねぇけどよ。大体22、3に間違われんだよな」
「!俺も、よく言われる……」
「お前はその髭がなぁ。成人です、っていってるようなもんじゃねぇか。剃らねぇのか?」
「こ、これは…形からでもワイルドになりたくて……」
「……ふはっ」
おずおずと話す東峰の様子と、その発言内容のギャップがツボにはまったらしく、兄は噴き出した。
あはは、と笑うその顔は黒崎が笑う時の顔とそっくりで、やはり二人は兄妹なんだな、と東峰は思う。
それと同時に、彼は意外と悪いやつじゃないかもしれない、という気持ちが東峰の中に湧き上がった。
あの三白眼も、笑顔の中に消えてしまえば愛らしいもののように思える。
「面白ェ奴!・・・確かに、お前話すとワイルドとは程遠いもんな」
「うっ……」
「でもお前はそれでいいんじゃねぇか。……そんなお前だから、妹は心開いたんだろうし」
「お兄さん…」
「やめろ!!お兄さんて呼ぶな!!気色悪ィ!!」
先ほどまでの笑顔はどこへやら、また三白眼に睨み付けられ東峰の体は縮こまる。
けれど黒崎の兄だという情報しか手元にない東峰は、なんと彼のことを呼んだらいいものか、頭を悩ませた。
「…よ、義明」
「え?」
ぼそりとつぶやかれた言葉は不明瞭で、思わず東峰は聞き返した。
「義理人情の『義』に、公明正大の『明』で『義明』!!どうしても呼ぶってんなら、義明って呼べ!!」
わざわざ、四字熟語を用いて漢字まで説明してくれる親切ぶりに、東峰は噴き出しそうになった。
けれど顔を真っ赤にして言う本人を目の前にして笑うことは憚られた。ぐっと笑いをかみ殺して、分かった、と頷く。
「あー、もう、今日のとこは解散!!…ったく、なんで名乗ってんだ俺……」
頭をガリガリと掻いて、黒崎の兄、義明は照れくさそうにそっぽを向いた。
見た目も中身も怖いけれど、根は妹思いの(ちょっと強すぎるけれど)いい奴なのかもしれない。
「じゃ、じゃあな」
「う、うん、また……」
何故かお互いどこか照れた様子で挨拶を交わす二人に、菅原と澤村は首をかしげる。
彼らが一体何を話していたのか、二人には聞こえなかったが、黒崎の兄と東峰の間には何か妙な絆のようなものが芽生えたらしかった。