第19章 その男、シスコンにつき。
「……お前、妹の事どう思ってんだ?」
「えっ、ど、どうって?」
「…………」
兄と東峰の間に嫌な沈黙が流れる。
唸りながら兄が小さく呟く。
「……す、好きか嫌いかって、聞いてんだよ……」
「えっ……?!」
「女として意識してんのかってことだよ!!」
「っ!!?」
兄は勢いよく東峰の襟元を掴んで揺さぶった。
殴られると思ったのか、遠巻きに見ていた澤村と菅原の二人が駆け寄ろうとしたが、東峰は二人に大丈夫だとジェスチャーで伝えた。
「……お、俺は…」
本人に伝える前に、まさかその兄に気持ちを伝えることになると誰が想像していただろう。
菅原達に言うのともまた違う。気恥ずかしさと、兄の反応への恐怖と、ないまぜになった心持で東峰は言葉を口にした。
「妹さんのことが、好き、です」
東峰の返答を聞いた瞬間、兄は凄まじい形相になった。
掴まれた襟元にぐっと力がこもるのを東峰は感じていた。
いつその拳が自分に飛んでくるだろうか、そんなことを東峰は思った。
けれど、自分の気持ちは嘘ではない。誰になじられようと恥じることなど一つもない、純粋な気持ちだ。
そう思っていた東峰の瞳は少し怯えた色をしながらも、兄を見据えていた。
東峰が本気だと感じ取ったのか、兄は掴んでいた襟元をそっと離した。
その代わりに深いため息をついて、一度地面に視線を落とし、また顔を上げてギッと東峰を睨み付けた。
「…俺はお前を認めたわけじゃねぇ。認めたわけじゃねぇけど、とりあえず様子見しといてやる。……ただ妹を泣かせるようなことがあれば……分かるな?」
東峰はこくこくと頷くしかなかった。
こちらを見て拳を固めている兄に、頷くよりほかになかっただろう。
「……お前、本当に高三なんだよな?年齢誤魔化してねぇよな?」
「してないです!ぴちぴちの17歳です!!」
「…マジかよ。同い年か……」
「…………えっ」
兄の発言に、間を置いて東峰が驚くと、兄の三白眼がギラリと光る。
「あ?なんだ?文句あんのか?」
「無いです、無いです」
「……おい、それ、やめろ」
「……?」
「敬語!同い年なのにおかしいだろ」
「あっ、はい」
「~だからぁ!!!」
「ご、ごめん……」
どう見ても同い年には見えなかった。自分と同じぴちぴちの17歳には見えなくて、東峰の頭は混乱するばかりだった。