第19章 その男、シスコンにつき。
怯える東峰をかばう形で、澤村と菅原が黒崎の兄の前に立ちふさがった。
「……どけ。俺はソイツとサシで話がしたい」
顎で東峰を指し示しそう言う黒崎の兄は、先日ほど殺気立ってはいなかった。
相変わらずその三白眼は獲物を殺さんばかりの迫力があったが、声音は思いのほか落ち着いていた。
それでも東峰と二人きりになった途端、態度を一変させるかもしれない。今日はストッパーになってくれる黒崎の姿はここにはない。この間のようにタイミングよく彼女が現れることもないだろう。
「黒崎のお兄さんにこういうのは失礼かもしれませんが、いきなり殴りかかってくるような人に、はいそうですかとコイツを差し出すわけにはいきません」
澤村の言葉に、兄の顔は一瞬歪む。
横の菅原は澤村が殴られるのではないかとヒヤリとしたが、兄は小さく舌打ちをしただけだった。
「……本当に、話すだけだ。…信用できねぇってんなら、お前らもついてくればいい」
落ち着いた兄の言動に、彼がこの間のように襲い掛かってくることはなさそうだった。
三人は顔を見合わせて、兄の後についていくことにした。
近くの公園のベンチに座り込んだ兄の横に、東峰も恐る恐る腰掛ける。
澤村と菅原の二人は少し離れた場所から兄と東峰の様子を窺っていた。
話がしたい、と言ったはずの兄は、東峰と二人になってからもなかなか口を開こうとしなかった。眉間の皴が深まるばかりで無言の兄に、東峰はちらちらと顔色を窺うしか出来ない。
「……あいつ……ちゃんと役に立ってるか…?」
唐突に、兄は東峰に尋ねた。
言い終えた兄の三白眼がぎろりと東峰に向けられる。
少し怯えながらも、東峰は兄の問いに答えた。
「っ、はい。とても助かってます。色々細かいところまで気遣ってくれて。いつも一生懸命走り回っていますよ」
「……そうか」
東峰の答えに兄は小さく頷く。そしてまたそのまま無言になってしまった。
沈黙に気まずさを覚え、東峰は落ち着かなかった。視線をあらゆる場所に泳がせて、時間が経つのを待った。
「……高校入ってから、変わったんだ」
また唐突に、兄が口を開いた。
東峰は黙って、彼の話に耳を傾ける。
「よく、笑うようになった。素で明るくなった。前から外面はいい奴だったけど、家でも笑顔でいることが増えた」