第19章 その男、シスコンにつき。
インターハイ予選五日前。
自主練を終えて、東峰はいつものように菅原と澤村の三人で学校を後にしようとしていた。
ついこの間まで一緒に帰っていた黒崎の姿は、まだ見当たらない。
今日も黒崎は清水と先に帰宅してしまっていた。
二日前、突然東峰達の目の前に現れた黒崎の兄の件もあって黒崎が一緒に帰りづらいのだろう、と東峰達は勝手に想像していた。
実際は、それは全くの見当違いだったのだが、この時の彼らには分かるはずもなかった。
「黒崎の兄ちゃん、キャラ濃いかったなぁ~。旭も大変だなぁ。義兄があの人ってなかなかだぞ」
「義兄って……。スガ、面白がってるだろ」
「いやマジメな話よ?美咲ちゃんと付き合う上で避けて通れない存在だべ」
「まぁそうだけど……」
菅原はマジメな話だと言うが、その顔はどこか悪戯を思いついた子供みたいな顔だ。
確実に面白がっている、と東峰はその顔を見て思った。
「また待ち伏せされてたりしてなぁ~」
「スガ、やめて…フラグ立てないで…」
「……おい、旭。もう遅かったみたいだぞ」
澤村が残念そうな顔でこちらを見るので、東峰は小さく、え、とこぼした。
東峰が先ほどまで澤村が見やっていた校門の先へと視線をとばすと、遠くからでもはっきりと金色の髪が光っているのが見えた。
「…待ち伏せ、だな」
「スガが変なこと言うから…」
「いや俺のせいかよ?!」
三人とも足が前に進まなくなっていた。
いくらあの金髪の男が、黒崎の兄だと分かったとはいえ、いきなり殴りかかってくるような危険人物に近寄りたいと思うものはいないだろう。
黒崎の兄は、じっとこちらを見て校門のそばから動く気配は無い。
彼の横を通らねば、家に帰ることは出来ないしいつまでもここに突っ立ったままなわけにもいかない。
が、何を思って黒崎の兄が今校門のところで待ち構えているのか分からないことには、うかつに動くのは危険な気が三人はしていた。
動く気配のない三人にしびれを切らしたのか、黒崎の兄は無言で三人の元に近づいてくる。
黒のツナギに身を包んでいるからか、今日は金髪がいやに目立つ。ポケットに手を突っ込んだまま、視線は東峰を捉えて離さない。
「……おい、こっち来るぞ」
「ど、どうしよう?!」