第18章 嵐を呼ぶ男
「大丈夫だよ、何ともないから」
「そっすか。なら良かった」
「それにしても……一体何が…?」
駆け付けた時にはすでに金髪の男は地に倒れ伏していた為、先ほどの光景を目にした三年以外は今のこの状況が全く理解できていなかった。
田中が何があったのかと三年に尋ねるも、皆言葉を濁してしまい、詳しいことが分からない。
「あれっ?美咲ちゃん?」
先に帰ったはずの黒崎が地面にあぐらをかいて座り込んでしまっている金髪の男の横で、男のスカジャンを握りしめて立っている。
強面の男の横に立っていることすら違和感を覚えるのに、その上スカジャンを握りしめている黒崎の姿に、田中達は頭の中で疑問符が増えていくばかりだった。
「おい、危ねぇぞ。そいつから離れた方がいいんじゃ…」
「あ、大丈夫です。……一応、兄、なので」
田中の忠告に、さらりと答えた黒崎に一瞬時が止まる。
次の瞬間には、三年を除くバレー部員達の驚きの声が一斉にこだました。
「えーっ?!?!あ、兄?!?!」
「美咲ちゃんの兄貴が旭さんの命を狙ってた……?!」
田中が噂の金髪の男を前にして、そんなことを叫ぶと、男も負けじと叫び返した。
「命までは狙ってねぇ!!」
「お兄ちゃんは黙ってて」
「?!?」
黒崎の今まで見たことのない雰囲気に、田中達は背筋がぞわりとするのを感じた。
口元は確かに笑顔のそれなのだが、目の奥は全く笑っていない。
「やべぇ、大地さんより怖ェかも……」
思わず田中はそう呟いてしまう。
耳ざとくそれを聞きつけた金髪の男、もとい黒崎の兄は眼光鋭く田中を睨み付ける。
「おいそこの坊主頭!うちの妹はな、めちゃくちゃ可愛いんだかんな!!」
「えっ、あっ、ハイ…」
「間違っても『怖ェ』なんて形容詞使うな!絞め殺すぞ!」
「…すいませんっした…」
黒崎の兄の剣幕に、田中は素直に謝罪の言葉を述べる。
堅気には見えない兄ではあったが、言っていることは重度のシスコンのそれだ。
兄の外面と内面のちぐはぐな感じに、バレー部員達は恐ろしいやら面白いやら複雑な思いを抱き始めていた。
「…なんというか…妹思いのお兄さんが暴走した、って感じ…?」
「…みたいだな…」
「もう本当にすみません!うちの兄が…!」