第18章 嵐を呼ぶ男
また頭を下げだした黒崎に、三年は皆もういいよと口々に言う。
頭を下げまくる妹の隣で、ぶすっとした顔で兄はそっぽを向いている。
黒崎の小さな拳が兄の頭に振り下ろされ、皆に謝罪するように促されると、兄は口を尖らせ目は明後日の方向を向いたまま口だけの謝罪をよこした。
「もう、ちゃんと謝って!ほら立って!頭下げる!!」
「チッ。…………悪かったな」
舌打ちをしつつも、今度はきちんと東峰達に向かって頭を下げる。
頭を上げた兄の顔は全く反省はしていなさそうな顔だったが、誰もそこに突っ込むことは出来なかった。
出来るとすれば、横にいる黒崎くらいであっただろう。
「…あっ、黒崎さん!これ、体育館に忘れてたよ」
空気を変えるように発言したのは縁下だった。
彼の手には黒崎の物らしき可愛らしい小袋が握られている。
「っ!ありがとうございます!…そうだった、忘れ物取りに来たの、忘れてた…」
「ちっ。運が悪かったぜ…お前が帰ったの見計らって出てきたのによ」
黒崎の兄の三白眼がまたギロリと旭の方へ向いた。
タイミングよく黒崎が現れていなければ、今頃冷たい海に沈んでいたかもしれない気がして、東峰の背中を冷たい汗が伝っていった。
「大体なんで先輩達に絡んでたのよ!!」
「あ??そりゃお前、お前がこいつのことを…っ?!」
兄が言いかけたところで、黒崎がまた鮮やかな手つきで兄の口を塞いだ。
菅原は心の中で黒崎に称賛の声を送った。
菅原の予想が正しければ、兄の口から黒崎の東峰に対する気持ちが語られてしまうところだっただろう。
「お前がなんでって聞いてきたのに…っ!」
「分かった。続きは家でゆっくり聞くから。ね?」
帰ろう?と有無を言わさない笑顔を浮かべて、黒崎は兄を引きずるように家へ帰って行った。
ずるずると地面に線を引きながら連れていかれる兄は、去り際に東峰に向かって叫んだ。
「俺はお前が義理の弟なんて、ゼッテー認めねェからな!!成人の高校生なんて認めねェー!!!」
暴れる兄を黒崎が大人しくさせるのに時間はかからなかったようで、その後はぱったりと静かになった。
遠ざかっていく嵐のような兄妹を、バレー部員達は静かに見送った。