第18章 嵐を呼ぶ男
「俺、何もしてないのに……」
肩を落とす東峰に、菅原達は今回の噂話も、誤解が招いたものかもしれない、と思った。
「金髪の男が誰なのか、全く分からないんスか?」
田中の問いに、東峰はこくりと頷く。
本当に一切思い当たる人物がいないのだ。
「金髪オールバックって言えば、烏養コーチも…」
「けど、顔に傷があったって話だぜ」
「それに烏養さんだったら旭さん探してるとか変だろ」
「確かに……」
東峰に限らず、他の部員の中にも金髪の男に心当たりのいる者はいなかった。
謎が謎を呼ぶ不穏な噂に首をひねりながらも、菅原は東峰に身辺に気を付けるように促したのだった。
「変な噂を勘違いした不良とかかもしれねぇな…。相手が誰なのか、何の目的なのかも分かんねぇし、しばらく気をつけろよ旭」
「お、おう…」
「先生達にも相談しときましょう」
「そうだな」
いつ解決するかも分からないこの状況にただ怯えるしかない東峰だったが、いつもどおり部活は始まった。
部活が始まれば、意識はバレー一本に集中できる。
そこはありがたいことだと東峰は思った。
普段通りにメニューをこなして、部活終了後の自主練もこなした。
今日も黒崎は清水と先に帰ってしまっていたので、少し寂しく思いながらも東峰は菅原達と体育館を後にした。
「今日も美咲ちゃん先に帰っちゃったの?」
「…みたいだな。ここのところ清水と先に帰っちゃうんだよなぁ…」
「仲直りはしたんだろ?お前ら」
澤村は東峰の表情を確認するように問いかけた。
この間のように落ち込んでいる様子はあまり見られず、澤村はほっとする。
「した。と思う。前みたいに普通に話せるようになったし」
「やっぱりなんか毎日用事があるんじゃね?俺、前そんなこと言ったべ?」
「言ってたなぁ。でもあの時は苦しい言い訳にしか聞こえなかったぞ」
「…まぁ今は変な男の話もあるし。一緒に帰らない方がいいと思ってる。黒崎に危険が及んだら、困るから」
東峰の言葉に、菅原と澤村も深く頷く。
東峰の身も心配ではあるが、黒崎は女の子だ。
不審な男の目的が不明な限り、彼女に身の危険がせまらないとも限らない。
「確かになぁ。ホントなんなんだろな、金髪の男…」