第18章 嵐を呼ぶ男
お腹を抱えてひぃひぃ笑っている二人を、理解できないといった顔で東峰は見ていた。
自分のことではないから笑えるのだろうか?と東峰が震えながらも首をかしげていると、縁下が菅原に突っ込みを入れた。
「…菅原さん、東峰さん怖がらせて楽しんでいませんか?」
「あは、バレた?」
ぺろっと舌を出した菅原を見て、東峰はその場にへたりこんでしまった。
そんな東峰を見て、また田中と西谷はお腹を抱えて苦しそうにひぃひぃ言っている。
「お前ら、東峰さんに失礼だぞ」
「だ、だって、旭さん、めっちゃ、素直に、ダマされてっ……っ!!」
「ちょ、っと考えたら、わ、わかるのに…っ!!」
言い終わらないうちに、二人はまた笑い出す。
なんだよぉ、と涙目になりながら東峰が立ち上がると菅原は気のない謝罪をよこした。
「悪い悪い。ついからかいたくなって。や、でも金髪の男が旭を探してる、って話はホントに聞いたべ?うちのクラスの奴何人か、『どんな奴だ?』って詰め寄られたって言ってたな」
「…っ!!俺もクラスの奴にそんなこと言われたんだよ…。何なんだろ…本当に身に覚えないんだけど」
まだ震え声の東峰に、脅かした菅原も少し彼のことを不憫に思いだした。
その容姿のせいで、今までも彼は色々と勝手な想像をされては困った目にあっているのだ。
「試合会場行った時とか、あらぬ噂話されたりしてるもんな、お前」
「やばいクスリ売ってるとかでしたっけ」
「そうそう。それで職員室に呼び出されたことあったよな、確か」
「……あった」
それは東峰にとって苦い経験だった。
何をどう誤解されたのか、薬物を他校の生徒に売りつけていたと嘘の情報を流され、しまいにはその噂を鵜吞みにした教師に呼び出しをされてしまったのだ。
その教師は東峰の容姿にあまりいい印象を抱いておらず、他の教師がいくらそんな生徒ではないと擁護してもなかなか納得しなかった。
おかげでしばらく東峰は、周囲の人間に変な目で見られることになったのだった。
クラスメイト達は東峰の人柄を知っていたので早々に誤解はとけたのだが、他のクラスや下の学年の生徒の中にはいまだに誤解したままの者もいるかもしれない。