第2章 旭先輩
そんな清水先輩の配慮をよそに、私は思い切って自分から先輩に尋ねてみることにした。
「あの…清水先輩はどうしてバレー部のマネージャーになったんですか?」
触れないようにしていた話題を私から先輩に振ったからか、清水先輩は少し驚いた顔で私を見ていた。
けれど嫌な顔はせずに私の問いに答えてくれたのだった。
「澤村にね、誘われたの。マネージャーやらないかって」
清水先輩が後ろにいる澤村先輩にちらりと視線をやって、澤村先輩に「ね?」と声をかける。
それに対して澤村先輩がこくりと頷いた。
「バレーの経験はなかったけど、スポーツは好きだったからやってみようかなって」
清水先輩の話を聞いて、私は少しホッとしていた。
ここでマネージャーを始めた理由が大層なものだったら、ますますマネージャーをやりたい、とは言い出しにくくなっていただろうから。
清水先輩の言葉に考え込むような顔をしていた私に、後ろから旭先輩が優しく声をかけてきた。
「…もしかして、マネージャーを始める『理由』に悩んでたのかな?」
「…あ、はい…。…誘われるままに、始めてもいいのかなって…」
言って、今日の練習風景が目に浮かんできた。
部員の誰もが真剣に、ただひたすらに部活に打ち込んでいる姿。
そんな熱気に包まれた集団の中に、流されるまま、不純な動機でマネージャーになること。
それでも私は誰かに背中を押してほしかったにちがいない。
『それでもいいんだよ』と。
「やってみたいなら、やってみたらいいよ。きっかけがなんであれ、誰もそれを咎めたりしないよ」
「そうそう。むしろ初めから明確な目標を持ってる人の方が少ないんじゃない?」
旭先輩と菅原先輩がにこっと笑ってそう言う。
それに続くように清水先輩も背中を後押ししてくれた。
「私だって、最初は澤村に誘われるままにマネージャー始めたんだもの。始めた時は大層な理由なんて、持ってなかったよ。」
3年生はみんな優しい顔で私を見ていた。
せっかく見つけたマネージャー候補をみすみす逃したくなかったからかもしれない。
それでも、うじうじ悩んでいる私の背中を押してくれた先輩達の言葉に、ひどく嬉しくなった。
「初めてのことってドキドキするし、不安もあると思うけど…思い切って飛び込んでみたら、案外楽しいと思うよ?」