第2章 旭先輩
そう続けた私の言葉に、先輩達は明るい未来を見ることはできなかっただろう。
あからさまに態度には出さないけれど、失望の色がうっすらと見え隠れしている。
旭先輩にまで、そんな目で見られるのは、嫌な気分だ。
「でも、バレーって面白いんだって気づかせてもらいました。そばで見ていられたらいいな、とも思いました」
そう口にすると、自然と視線は旭先輩へと向かってしまった。
真摯にバレーに打ち込む先輩の姿はとても眩しくてかっこよかった。
マネージャーになれば、毎日その姿を見ることができる。
けれど…
「おう、見たらいいべ!俺たち大歓迎だよ!」
菅原先輩が歯を見せてニッと笑う。
先輩たちが思っているほど純粋な動機じゃないことは、やはりまだ自分の中で引っかかっている。
私がマネージャーをやる、と言えば誰も反対などしないだろう。
けれど本当に、こんな始まりでいいのだろうか?
純粋に部活に打ち込む彼らの邪魔になりはしないだろうか?
頭の中ではそのことばかりがぐるぐると渦巻いている。
「…何か、迷ってるの?」
旭先輩は言葉の割りに煮え切らない私の態度を怪訝に思っているようだった。
「……なんと言っていいのか、分からないんですけど……」
本当に、なんと言ったらよいのだろう?
まさか馬鹿正直に不純な動機について説明するわけにはいかない。
言葉に詰まってしまった私を救ってくれたのは、女神様だった。
「ちょっと、あんたたち。取り囲んで黒崎さんいじめないで」
暗闇に浮かび上がる、神々しい清水先輩の姿に思わず拝みそうになった。
まさに天の助けだ。
「えっ、いじめてなんかないよ?!」
旭先輩が驚きあわてて清水先輩の言葉を否定する。
「3年男子にそんな風に囲い込まれて、黒崎さんが怯えないとでも?」
清水先輩の鋭い視線に、旭先輩達は思わず後ずさった。
ひとまず先輩達との会話はそこで中断され、私の入部をしぶる理由は曖昧にされたまま家路につくことになった。
清水先輩と私が横並びになり、その後ろから3年生達がついてくる形で下校した。
最近始まったドラマの話とか、学校の先生の話とか、清水先輩が私に振ってくるのは他愛ない話ばかりだった。
先ほどの3年生と私とのやり取りのことがあったからか、バレー部の話は極力避けているようだった。