第18章 嵐を呼ぶ男
そんなことをクラスメイトに言われていることなど、当の東峰は全く気が付かずに、西谷に引きずられるように部活へと向かっていた。
西谷が先陣を切って部室へ足を踏み入れると、開いたドアの向こうから元気な挨拶がとんでくる。
それに西谷と東峰も挨拶を返して、それぞれ着替えを始めようと制服に手をかけた時だった。
脱いだ制服をぐしゃっと勢いよく畳んで、田中が東峰の前に飛び出してきた。
「旭さん!!命狙われてるって聞いたんスけど、何かあったんスか??!」
「はぁっ?!い、命?!?」
「うちのクラスでもそんな話聞きましたよ」
「え?!縁下のクラスでも?!」
一体今日は何だというのだろう。
自分のクラスでは金髪のガラの悪そうな男に探されていると聞かされ、後輩達には命を狙われているのかと尋ねられ……自分の身に、何か不穏な気配が近づいていることを東峰は嫌でも感じざるを得なかった。
しかしどちらも全く身に覚えがないのだ。それが東峰の恐怖心をさらに煽っていた。
「それってあれか?金髪オールバック男の話?」
制服を丁寧に畳んで、着替えやすいようにシャツを一番上に重ねて、菅原は騒ぎの方を振り返り口を挟む。
『金髪のオールバック』
確かクラスメイトが話していた、東峰を探し回っているという謎の男の特徴だ。
何か自分の知らない情報を菅原が掴んでいるのではないかと思い、東峰は思わず菅原の肩を掴んで食い入るように見つめた。
「スガ、何か知ってるのか?!?」
「い、いや、知ってるっていうか……俺もクラスの奴から聞かされただけなんだけど…」
東峰のあまりの怯えように、彼の小心者なところに慣れている菅原も若干引き気味であった。
しかし本人は噂についての心当たりはないようで、それゆえ得体のしれない謎の人物に怯えるのも無理はないと菅原は納得した。
「なんでもその金髪オールバックの奴が、夜な夜な烏野の街を徘徊してるらしいんだ。『アズマネアサヒハドコダ…』って。しかも手にした包丁を舌先で舐めながら…。目が合うと追ってくるらしい……」
「ひぃぃぃぃっっ!!!!」
菅原の迫力ある演技に、東峰は飛び上がらんばかりの勢いで身をすくめ、震えだした。
しかし横で聞いていた田中と西谷は、少しの間を置いて大笑いし始めたのである。