第17章 菅原先生の恋愛指南
夜久の事ばかりをライバル視していた東峰と違い、菅原は身近にもライバルになる可能性がある人物がいる事を懸念していた。
今現在、はっきりとその存在を確認しているわけではない。
けれど人の気持ちというのはいつ何が起こるか分からないものだ。
牽制しておくに越したことはないだろう、と菅原は思っていたのだ。
「旭、お前が美咲ちゃんの事、好きだって意識しだしたのいつ?」
「えっ?! な、なに急に」
突然の質問に、東峰は目を白黒させた。
おさまり始めていた頬の熱が、また急上昇していくのを東峰はひしひしと感じていた。
対する菅原はそんな東峰の様子などお構いなしに、話を続ける。
「いいから答えて」
「……え、えー…?GW合宿の、時?かな?? ……でもなんか気が付いたらそんな感じだったっていうか…」
「だろ? 恋に落ちるのなんて一瞬なわけよ。明確なきっかけが無くても、好きになることだってある。だから、身近な奴にも注意しておかないと。遠くのライバルばっかりに気を取られてちゃなんねーわけ。分かる?」
「り、理屈は分かる気もするけど…」
懇々と自身の恋愛論を語って聞かせる菅原に、東峰はそこまで気を回さなくても、と思った。チームメイトの中に黒崎のことを好きになる人間が現れないとは確かに言い切れないけれど、そんな雰囲気の人間は今のところ思い当たらない。
ただでさえ夜久のことでいっぱいいっぱいなのに、この上なるかどうかも分からないライバルとして1、2年のことを考えなければならないなんて、東峰にとって拷問でしかなかった。
「まわりみんなライバルって考えるのはしんどいなぁ…」
「何言ってんだよ、そのくらい身構えておいて正解なんだって!ライバルみんな蹴散らしてやるぞ、くらいの心意気で挑まねぇと」
「そうかなぁ…」
「お前今まで付き合ってきた彼女、全部相手からの告白だろ?今回はお前が言う側なんだから、そのくらいの気概がないとな」
「……っ、そ、そっか、告白……」
全部言い切る前に、東峰の体温がまた上がった。
いつか黒崎に想いを告げる日がくるのだ。
それがいつになるかまだ分からないけれど、いつかは自分の口から彼女に想いを伝えなければ。
黒崎の顔が浮かんで、東峰は緊張で体がこわばっていくのを感じた。