第17章 菅原先生の恋愛指南
しかし菅原にとってはそこは大して重要な事ではないようだ。
「美咲ちゃんは『旭』って下の名前で呼んでんだしさ。さらっと『俺も名前で呼ぶようにするな~』でいいじゃん」
「無理無理無理無理!!さらっとなんて無理!!!」
先ほどよりも大きく首と手を振る東峰に、菅原は口を尖らせる。自分がナイスだと思った提案が受け入れられず、釈然としないようだ。
「じゃあべたっとでもいいよ」
「何だよ?!『べたっと』って?!意味分かんないよ」
投げやりになってきた菅原に、東峰がつっこみを入れると菅原の口はさらに尖っていった。
「もー、あれこれ言い訳ばっかりで、距離詰める気ないのかよ!」
「いやあるよ!あるけど……。でもさ、『名前で呼ぶ』って、特別な事だろ?」
東峰の言葉に、菅原は目を丸くした。横で二人のやり取りを黙って聞いていた澤村も、菅原と同じ反応をしている。
「…初対面で『旭』って呼ばれて気にしない人が、それを言う?」
じとっとした目で菅原は東峰をねめつける。菅原の圧に気おされて、東峰の大きな体がびくっと震えて若干後ろへ下がった。
「いや、自分が呼ばれるのは構わないんだよ」
「なんだそれ…」
「そ、それにさ、清水のことだっていまだに苗字で呼んでるのに、黒崎の事を急に名前で呼びだしたら周りの奴らがなんて思うか」
「あーとうとうあの二人付き合いだしたんだなー、で終了だよ」
「?!?!」
さらりと言ってのける菅原に東峰は動揺を隠せないでいる。瞬間的に顔に血が集まったのだろう、耳まで真っ赤になってしまった東峰の顔を菅原と澤村の二人は面白そうに観察する。
「田中とか西谷あたりはそんなこと思いそうだな。合宿の時点でお前らが付き合ってると思ってたみたいだし」
久々に口を開いた澤村までそんなことを言うので、東峰の顔はますます赤くなってしまった。口をパクパクさせてまるで酸欠の金魚みたいだ。
「いいじゃん、外堀から埋めていけるし。そのうえ虫よけにもなるし、一石三鳥くらい効果あるんじゃね?」
「…虫よけ?ってなに?」
「は?いや1、2年の中にだって美咲ちゃんのこと好きになるやつが出てくるかもしれないだろ?そうなる前にお前らがそういう仲なんだって認識させれば、そんな気持ち抱くやつも出てこないよ」