第17章 菅原先生の恋愛指南
菅原が爽やかな笑顔でそう切り出すと、東峰は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに恥ずかしそうに小さく頷いた。
ほんのり赤く染まる東峰の頬を見て、澤村の眉尻がゆるりと下がる。
こんなに大きな図体をしていながら、心はさながら乙女のようで、そのアンバランスさに澤村はなんともいえない気持ちになった。
「ありがとう。この間の倉庫の、スガが気を回してくれたんだろ?おかげで仲直り出来たよ」
「おう、感謝しとけよ?」
「めちゃくちゃ感謝してるよ、ありがとう」
東峰の二回目の礼に、菅原はにししと笑いながら少し気恥ずかしくなっていた。
素直に礼を言われるとどこかむず痒さを感じるのだ。
「いつでも相談乗るから、何かあったらすぐ言うんだぞ!菅原大先生に任せておけば安心だべ」
菅原は気恥ずかしさを誤魔化そうと、わざと明るいテンションでそんな言葉を東峰に向けた。
お前彼女いないじゃんか、と澤村と東峰にツッコまれると、菅原は憮然とした表情になる。
「いやいやいや、キミたちは俺の実力を知らないんだな。俺が今まで橋渡ししてきたカップルは数知れず……!」
仰々しいその物言いに若干引き気味の澤村をよそに、東峰は「おお」と声をあげて菅原に尊敬の眼差しを向ける。
事実、菅原の言葉は誇張でもなんでもなく、彼は稀代の『恋のキューピッド』なのであった。
今も密かに数名の女子生徒から橋渡しを頼まれている。
「だから旭。お前の恋も必ず実らせてやるべ!」
「おお、スガ…なんか頼もしいな…!」
キューピッドを買って出た菅原に、東峰はまるで神様でも拝むかのように手を合わせた。
そんな二人を呆れ顔で見ているのは澤村だ。
「……って言っても、こういうのは本人が頑張らないとダメだろう」
澤村が冷静にそう突っ込む。
東峰も菅原も、澤村のその意見には同意のようだ。
「そりゃ最終的には旭が頑張んなきゃダメだべ?でも良い関係になるには、ある程度周囲のお膳立てってのも必要だと思うよ、俺は」
「お膳立てねぇ」
人の恋路にあれこれ首をつっこむタイプではない澤村は、菅原の言葉に半分は理解を示したが完全には納得していない様子だ。
「もちろん、お節介になりすぎない程度のお膳立てね。あからさますぎちゃ、意味がない」
「なんか深いんだなぁ、キューピッドも……」
菅原の力説に、東峰はいたく感心している。