第17章 菅原先生の恋愛指南
インターハイ予選まで、残すところあと約一週間になった。
わだかまりを解消して、それまでと同じようによく笑い合うようになった黒崎と東峰の姿に、菅原達はホッと胸をなでおろしていた。
特に澤村は、くよくよと落ち込んでいる東峰がそのままのメンタルで試合に臨むことになってしまうのでは、と危惧していただけあって、菅原と清水の二人よりも安堵しているようだった。
昼休み、澤村と菅原が待つ教室へ東峰が姿を見せた。
最高気温25度をマークする今日の日でも、彼はクリーム色のベストを着ている。
暑さに制服のシャツを腕まくりしていた澤村は、東峰の恰好を見て思わず眉根が寄ってしまう。
「暑くないのか、旭」
「うん?別に暑くないけど……」
うっすらと額に汗をかいている澤村とは対照的に、東峰は涼し気な顔をしている。
白いシャツを大きく揺すって風を取り込み少しでも涼をとろうと試みている菅原も、東峰のベスト姿に嫌そうな顔をした。
「冷え性の女子みたいだな」
「えっ、別にそういうわけじゃ…」
「冬は足元にブランケット巻いてそう、お前」
「ワイルドとは程遠いな」
菅原と澤村に好き勝手言われて、東峰は「お前らひどい」とこぼす。
これが彼らの平常運転で、何も二人が東峰をいじめているわけではないのだが、傍から見たら少し誤解を受けるかもしれない光景だった。
「ま、それは置いといて。今日の部活後のメニューどうする?」
「新しい攻撃のパターン、もう少しやりこんでおきたいよな」
「個人でやりたいこともあるだろうし、時間配分決めてやる?」
「だな」
彼らが昼休みにわざわざ集まったのは、部活後の時間の過ごし方について話し合う為だった。
インターハイ予選に向けて、やれるべきことは全てやっておきたい。
時間は有限である事を、三年生の彼らは痛いほど分かっていた。
残り少ない時間を有効に使うにはどうすればよいのか、自分達であれこれ考えているのだ。
烏養コーチの指導だけに頼らず、自分達で出来ることは自分達で。そんな精神が彼らには根付いていた。
それは長らく指導者不在で過ごしてきた彼らだからこそ、持ちえたものだろう。
しばらく真面目に自主練メニューについて討論していた彼らだったが、一段落ついたところで話は東峰と彼の想い人の話に及んだ。
「まーほんと落ち着いてよかったなぁ、旭」