第2章 旭先輩
「1週間、一緒にやってみない?それでもやりたくない、って思うなら諦める。けど、少しでも興味が沸いたなら一緒にマネージャー、やってほしいな」
「わ、かりました」
清水先輩ににっこり微笑まれてそんな風に言われて、断れる人間がいるだろうか。
同性の私でさえドキッとしてしまうその美貌には到底逆らえそうもなかった。
「じゃあ今日は遅くなっちゃったから、家まで送っていくね。着替えてくるからちょっと待っててくれる?」
「あ、はい」
言うなり清水先輩は着替えに行ってしまった。
1人体育館の外にポツンと取り残された私は、とっぷりと暮れてしまった空を見上げていた。
「黒崎さん、お疲れ」
声のした方に顔を向けると、制服姿の旭先輩達3年生がいた。
旭先輩はまたあのふにゃりとした笑顔をこちらに向けた。
「お疲れ様です」
「あれ、清水は?」
菅原先輩があたりをきょろきょろと見回す。
「あ、着替えに行きました」
「そっか。もう遅いし、俺ら送っていくよ。清水が来たら一緒に帰ろう」
「お気遣いありがとうございます」
「いいよ、そんなかしこまらなくったって。当たり前のことだし」
菅原先輩はさらりとそう言った。
この人はにこにこ笑顔でいることが多いし、雰囲気も柔らかく人当たりのよさそうな先輩だ。
こちらも気構えせずに話せるし、正直今菅原先輩の存在は非常にありがたい。
旭先輩を見るとちょっとドキドキしてしまうし、澤村先輩は優しいんだけれどどこか風格があって緊張してしまう。
「……黒崎さん、正直どんな感じ?今日マネの仕事やってみて」
少し聞きにくそうにしながら、菅原先輩が私に問いかけた。
菅原先輩達も、自分達が引退した後のことを考えているのだろう。
確かにあれだけの雑務をこなす人がいなくなったら、部員の誰かがその役割を担わなければならなくなる。
そうなると必然的にその役割をこなす人物の練習時間が削られるわけで……出来れば来年以降もマネージャーがいてくれた方が、部員たちは助かるだろう。
「思っていたより、大変なんだな、って思いました」
私は正直に思ったことを口にした。
その言葉に先輩たちの眉が少し落胆の色を見せたような気がした。
「…正直、マネージャーの仕事を甘く見ていたと思います」