第16章 応援のカタチ(後編)
黒崎は心の中で呟いていた。『旭先輩は悪くないです』と。けれど何故かその言葉はうまく口をついて出てこない。喉の奥で引っかかったままだった。
「嫌な言い方して、ごめん。あんな風に言うつもりじゃなかった。……黒崎が、夜久と仲良くしようがしまいが、それは俺がどうこう言うことじゃないって分かってる」
東峰の声が上の方からゆっくりと黒崎の元へ降ってくる。
染み入るように言葉が入り込んできて、黒崎は思わず泣きそうになった。
東峰がこの間のことをずっと気に病んでいたことを、黒崎は今ようやく知った。
そしてそのことを謝ろうと東峰が何度も試みていたことも、この時初めて知ったのだった。
「黒崎と前みたいに普通に話したい。…あんな風な態度とっておいて、あれなんだけど……。…ねぇ、黒崎。目も合わせてくれないほど、俺の事嫌いになった…?」
「!そんな事…!」
無いです、と続ける前に黒崎は勢いよく顔をあげて、東峰と視線を合わせた。
見上げた先の東峰の顔は今まで見たことがないくらい、悲しそうな寂しそうな顔をしていた。
そんな顔をさせてしまったことに、黒崎は申し訳なく感じていた。
「私こそ、ごめんなさい!」
「えっ?」
東峰は黒崎が謝罪したことに驚いていた。
自分が原因で気まずくなったと思い込んでいる彼にとっては、黒崎が謝罪する必要性を感じていなかったからだ。
「なんで黒崎が謝るの?俺が悪いのに」
「いえ、旭先輩の気分を害してしまったのは私なので」
「いや黒崎は悪くないんだよ」
「旭先輩だって悪くないです」
押し問答をし出した二人は、同時に押し黙った。
そして同じタイミングで噴き出し始めた。
「…こんなやり取り、前もやったな」
「初めて会った時、しましたね」
二人の脳裏に出会いのワンシーンが浮かんだ。
東峰が打ったボールが体育館を飛び出して黒崎の腕にぶつかったあの時。
やはり今と同じように東峰が謝って、黒崎も謝って、お互いに謝り倒していた。
「変わってないな、俺達」
「ふふ、そうですね」
元の二人に戻れた所をこっそり覗いていた菅原と清水が、顔を見合わせて喜んでいた事を東峰と黒崎は気が付かなかった。