第16章 応援のカタチ(後編)
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翌日、朝練が始まる前に菅原はちょうど一人でいた清水に、こっそり声をかけた。
昨日落ち込みに落ち込んでいた東峰の事で、清水に協力を仰ごうと思いたった菅原がその旨を清水に説明すると、清水はそれを快諾した。
聞けば清水の方も、黒崎と東峰の微妙な雰囲気を早いうちに打開させたかったらしく、菅原はすんなりと清水の協力を取り付けることが出来た。
「とにかく、二人きりにさせないと話が始まらないから。清水、うまいこと美咲ちゃんを倉庫に呼び出してもらえない?」
「分かった。東峰の方は菅原に任せたから」
「おう、任せとけ!」
そんな計画が秘密裏に行われているとは、当の本人達は全く気が付いておらず、朝練が終わった後、黒崎と東峰は何も知らされないまま、倉庫で鉢合わせすることになった。
「あっ」
顔を合わせた途端、黒崎も東峰も同じように驚いてそのまま固まってしまった。
お互いなんとなくギクシャクしているのを感じていたからか、こうやってきちんと二人で対面するのはしばらくぶりのことだった。
少しの間話していなかっただけなのに、どちらも何を話していいのやら分からない様子だ。
しばらく沈黙が続いたが、いたたまれなくなった黒崎が、先に動いた。
昨晩清水には「東峰と早く仲直りを」と言われたものの、実際そのチャンスが訪れると何と言って切り出せばよいのか黒崎は分からなかった。
先日感じた東峰との微妙な距離をまた感じるかもしれないと、黒崎は怖くなったのだ。
自然と体が東峰を避けるように動き、黒崎は軽く会釈をしてその場を離れようとした。
東峰の横を通り過ぎようとした瞬間、黒崎の手首が熱を帯びた。
キュッと力の込められた手首は、振りほどこうとしても振りほどけなかっただろう。黒崎に振りほどく意思はなかったが。
「黒崎、待って」
「……」
何か返事をしなければと思えば思うほど、黒崎の喉はきゅうっと締まっていって声を封じ込めてしまう。
気まずさから顔は地面の方へと向いて、視線は完全に足元にある。
それでも構わず、東峰は手首を離そうとはしなかった。
「この間は、ごめん」
東峰の口から出てきた謝罪の言葉に黒崎の喉は、またきゅうっと締まる。