第16章 応援のカタチ(後編)
嫉妬。そんなこと思いもしなかった。だって旭先輩が嫉妬する理由が見当たらないから。今の話のどこに旭先輩が嫉妬する要因があったのだろう。
潔子先輩の言葉を理解しかねている顔の私に、先輩の細い眉が少し下がった。眼鏡の奥の目が、「本当に分からないの?」と言いたげだ。
「夜久君からの電話が、嫌だったんじゃないかな」
「やっぱり嫌ですよね!ライバル相手だし」
「うん、だと思うよ」
「そっかぁ……じゃあ旭先輩達の前ではあんまり親しいところ見せない方がいいかな…。そりゃあいい気はしないですよね、昔から因縁のある対戦相手ですし」
「……うん?」
何故か潔子先輩は一瞬間を置いて、小首をかしげた。綺麗な眉がキュッと寄ったかと思うと、その表情はどこか困ったような顔になる。
「え?」
自分が何かおかしな発言をしたかと思って、潔子先輩と同じように小首をかしげた。
目をぱちくりとさせた潔子先輩は、眉尻を下げて苦笑する。
「……あぁ、そうだね。そう、いつかは倒さなきゃいけない相手だしね。…いろんな意味で」
「これから気をつけます」
「う、うん」
なんだか潔子先輩の返事が歯切れが悪かった気がするけれど、まぁ、いいか。
話が終わったところで、ちょうど人数分のフェルトを切り終えた。
潔子先輩に今日はここまでにしようと言われて、机の上に並んだフェルトを個別に小袋にしまった。
先輩の家に道具を置かせてもらうことにして、続きはまた明日することになった。
「遅いし、お父さんが送ってくれるって」
「ありがとうございます」
潔子先輩のお家で夕飯までご馳走になってしまい、その上車で送ってもらうことになった。
この体験が田中先輩達に知れたら、一日付きまとわれそうだ、なんて思った。
「じゃあまた明日ね。おやすみ」
「はい、色々とお世話になりました。おやすみなさい」
「…菅原じゃないけど、お節介一つだけ。早いとこ東峰と仲直りした方がいいよ?」
「っ、は、はい!」
去り際に何を言い出すかと思えば、旭先輩の話で、急に言われたものだから心の準備が出来ていなかった私の顔は一気に熱を帯びてしまった。
菅原先輩も、潔子先輩も、なんでそんなに気を回してくれるんだろう。
そんなことを思いながら、潔子先輩の乗った車が角を曲がるまで、見送った。