第16章 応援のカタチ(後編)
すると黒崎は東峰を一瞬視界に入れたようだったが、軽く頭を下げてその場を走り去ってしまった。
今までだったら、笑顔で東峰の元に駆け寄っていただろう黒崎がそんな態度をとったものだから、東峰はもちろん横で見ていた菅原も驚きの表情を隠せないでいた。
「…スガぁ…」
「?!お、おい、泣くなよ旭」
「俺、やっぱり嫌われたぁ~」
大きな体を萎ませて、ぱっと見強面に見える顔をくしゃくしゃにして、目に涙を浮かべた東峰に菅原は頭が痛くなった。
泣きついてきた東峰の背をさすって宥めながら、遥か彼方に走り去ってしまった黒崎の後ろ姿を菅原は見つめていた。
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昼休み、昼食を終えて急いで昨日干した横断幕の元へ向かった。
その途中で旭先輩に声をかけられたけれど、早く横断幕を片付けなければと気が急いて、軽く会釈してその場から離れた。
あの帰り道で気まずくなってから、少し旭先輩とは距離が空いてしまった気がする。
だからさっきみたいに旭先輩に声をかけられて、本当は駆け寄って行きたかったんだけれど……。
人目のつかない場所とはいえ、いつ横断幕が人の目に触れるか分からなかったから、どうしてもそっちの方に意識はいってしまった。
潔子先輩が待っているかもしれないし。
合宿所の干場に到着すると、思った通りそこにはもう潔子先輩の姿があった。
「遅くなりました!」
「ううん、私も今来たところだよ」
潔子先輩の優しい微笑みに、いつものように見惚れながら、二人で横断幕を綺麗に畳んで、急いで倉庫へと運んだ。
途中あたりを見回して、部員の姿が無い事を確認する。
その挙動があまりに不審に見えたようで、潔子先輩は苦笑していた。
「よし、これで大丈夫。あとはお披露目の日を待つだけだね」
「ですね!」
一仕事終えた気になって、ホッと胸をなでおろす私に、潔子先輩がニッと笑った。
目をぱちくりさせた私に、潔子先輩が言う。
「あとは、ストラップ。作らないとね」
「そうですね!…今日の帰りに手芸用品のお店寄りませんか?昨日必要な物リストアップしてきたので」
「うん、分かった。私もそう思ってお金準備してきたよ」
「ありがとうございます」
「ねぇ、ストラップ、良かったらうちで一緒に作らない?」
潔子先輩の提案に、私は遠慮なく頷いた。