第16章 応援のカタチ(後編)
「黒崎が『ライバル相手と仲良くしてごめんなさい』みたいなこと言うからさ…『別に黒崎が対戦するわけじゃないからいいんじゃない』って言っちゃって」
「ふうん?…別に余計な一言には思えないけどなぁ?」
菅原が言うと、東峰はふるふると力なく首を横に振る。
「ちょっと刺々しい感じで言っちゃったんだよ……こう、なんていうのかな…『勝手にすれば』みたいなニュアンスで言っちゃって……」
「なるほどなぁ」
言葉だけ聞いていれば、東峰の言葉は正論で、別段おかしくはないように菅原には思えた。
けれど東峰が補足したように、言い方とか微妙なニュアンスというもので、言葉の意味はずいぶんと変化するだろう。
「要するに、嫉妬したわけだ。夜久に」
「う…そう、だな」
「まぁあんなに仲良さげなところ見せつけられたらなぁ…旭の気持ちも分かるわ。それでコソコソ電話された日には……」
東峰の心境を思い、菅原は他人事ながら胸が痛くなった。
への字になってしまった東峰の口元を見ながら、菅原は状況を打開する策はないものかと頭をひねる。
「ううーん…とにかく美咲ちゃんと距離つめてくしかねぇべや?その失言のことは謝ってさ」
「だよな……」
「そういうの、早いとこ謝ってしまった方がいいと思うぞ?時間経てば経つほど溝深まりそうだし」
「おう、そうだな…」
菅原に答えながらも依然として落ち込んだままの東峰に、菅原は思いっきり東峰の背中を叩いて喝を入れた。
「自信持てよ、旭!確かに夜久のことは気になるけども!物理的な距離はこっちにアドバンテージあんだからよ!」
痛みに顔をしかめながら、東峰は菅原の言葉を噛みしめた。
友人の、文字通り力強い鼓舞に東峰は力強く頷く。
「いや~…しっかし旭がそこまで美咲ちゃんにぞっこんだとはね~」
「ぞっこんって…ちょっと古くないか」
「そーか?でも事実だろ?」
にししっと菅原が笑うと、東峰は恥ずかしそうに目をそらして後頭部を掻いた。
「おっ、噂をすれば、美咲ちゃんじゃん!旭、チャンスチャンス!声かけろよ」
菅原の目線を追って東峰がそちらに目をやると、小走りでどこかへ駆けて行こうとしている黒崎の姿が目に映った。
黒崎は東峰達に気が付いていないようで、東峰は彼女に向けて大きく手を振った。