第16章 応援のカタチ(後編)
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東峰旭は思い悩んでいた。
彼の深いため息を横で何度も聞いていた菅原は、彼が思い悩んでいそうな事柄を頭の中で並べていた。
もうすぐ高校最後のインターハイ予選がある。
一つでも落とせば予選は即終了。そして順当に勝ち上がっていけば、三月にこっぴどく負けてしまった伊達工とも当たることになる。
菅原はその試合を前にして、東峰がナイーブになっているのかもしれない、と見当をつけて、彼に声をかけた。
「どした?旭。最近ため息ついてばっかだな」
「あー…スガ…」
力なくこちらを見る東峰に、菅原は思ったよりも深刻そうな悩みだ、と思った。
東峰の隣に腰を下ろして、彼の悩みにとことん付き合う姿勢を菅原が見せると、東峰はまた深いため息をついて語り出した。
「俺、黒崎に嫌われちゃったかもしれない……」
東峰の声は震えていた。
思い描いていた悩みとは違ったが、東峰にとってはこれは重要な問題だろう、と菅原は思った。
そういえば最近は黒崎は東峰を避けているというか、以前よりも東峰といる姿を見かけることが少なくなっている気が菅原はしていた。
この間帰りに肉まんを食べて帰ろうと誘った時も、東峰に対してあまり執着はしていないようだった。
黒崎の中で、何か東峰に対する気持ちが変化したのかもしれない。
菅原の頭の中に音駒の夜久の顔がフッと浮かんだ。
東峰に夜久のことを『ライバル』だと煽ってしまっていたことを思い出し、まさか本当に彼がライバルになってしまったのでは、と菅原は危惧した。
「嫌われたって、何か思い当たることがあんの?」
「……うん」
「何やったんだよ、旭」
「この間さ……」
東峰が言うには、黒崎と一緒に帰宅している時に音駒の夜久から黒崎に電話がかかってきたらしい。
そしてその電話を東峰に聞かれないようにこそこそしていたと。
それがどうも気に障ってしまって、余計な一言を言ってしまったらしい。
自分の読みがあながち間違いでなかったことに、菅原は自分でも驚いていた。
変に煽ってしまって悪かったかな、と菅原は自省した。
「…余計な一言って、何言ったの?」
菅原が尋ねると、東峰の立派な眉がどこまでも頼りなく下がっていった。
至極言いにくそうに、おずおずと東峰は言葉を絞り出す。