第2章 旭先輩
旭先輩のスパイクを打つ姿に見惚れた私は、その後に他の部員の練習姿を眺めつつ、ちらちらと目で旭先輩を追った。
あからさますぎて引かれたら嫌だから、あまりじっと見つめることはしないようにした。
でも、そのおかげでバレー部全体の雰囲気を知ることが出来た。
きっかけは旭先輩のあの一発だったけれど、私はグイグイとバレーの魅力にひきこまれていた。
「練習でこの迫力だったら、試合だともっとすごいんでしょうね」
「そうだね。マネージャーになったら、ベンチから試合を見ることになるから、きっともっとハマると思うよ」
清水先輩はいたずらっこのような笑顔を見せた。
私の気持ちが先ほどとは大きく変化していることに、清水先輩は気が付いているようだった。
後から聞いたら、気を付けていたつもりだったけれど、かなり食い入るように練習風景を見ていたらしい。
「…とりあえず、仕事は今日はこのくらいかな。といっても、もうすぐ部活終わっちゃうけど。今日は軽く見学のつもりだったのに、がっつり仕事させちゃったね」
「いえ…いい経験させてもらいました」
「ふふ、そう?マネになったら明日から毎日、経験できるよ?」
さりげなく、清水先輩が勧誘する。
旭先輩のこともあって、私は気持ちがだいぶぐらついていた。
体育館に足を踏み入れるまではマネをやらない気持ちの方が大きかったのに、今ではその逆だ。
けれど私がマネをやってみたいと思ったのは、少し不純な動機で。
今度はそんな動機でマネージャーを始めてもいいものかと思い悩んでいた。
部活中に清水先輩から聞いた話だと、今年は全国の舞台を真剣に目指しているらしい。
そんな中で、『先輩かっこいいな』的なふわふわした気持ちで部活に参加してもよいのだろうか。
言わなきゃ動機なんて分からないだろうけど、私の場合、態度に出てしまいそうで心配だ。
…なんてことを悶々と考えていたので、清水先輩の勧誘に対して私は黙りこくったままになってしまっていた。
そんな私を見て、清水先輩は「1週間おためし期間設けてみない?」と提案してきたのだった。
「……おためし期間、ですか?」
「そう。私としても無理強いはしたくないんだけど、でも簡単に手放したくもないんだ。」
先輩の言葉に、それはそうだろうと1人納得する。
あんなに必死に勧誘して、やっと見つけたのはどうやら私だけのようだから。