第16章 応援のカタチ(後編)
「おーい、清水、美咲ちゃん!帰りに大地が肉まんおごってくれるってー!」
部活が終わって、菅原先輩が笑顔で私と潔子先輩に声をかけてきた。
「あ、ごめん。ちょっとやることがあるから」
「私も、すみません…」
菅原先輩はまさか断られるとは思っていなかったのか、驚いた顔をしていた。
「えっ…、ま、まぁ清水は分からんでもないけど……美咲ちゃん正気?」
「は、はい、正気ですけど…」
菅原先輩にそこまで言われるとは思っていなくて、今度はこっちが驚いてしまった。
先輩の誘いを無下に断るなんて正気じゃない、ってことだろうか?
せっかく誘ってもらったのに申し訳ないと思い、菅原先輩に軽く頭を下げる。
すると菅原先輩は周囲を見回して、耳打ちするように言葉を続けた。
「…旭も一緒だよ?いいの?」
「は、はい…今日は、遠慮しておきます…」
「?!」
私の言葉に、また菅原先輩の目が大きく見開かれた。
そんなに私が旭先輩といたいように見えているのかな。
気持ちがダダ漏れになっているのだとしたら、気を付けなければ…。
「どうしたの、今日。旭と喧嘩でもした?」
「いえ……そういう訳では。ちょっと用事があって」
喧嘩ではないけれど、昨日少し気まずい空気にはなった。
学校で顔を合わせた時には、昨日のことを考えないようにしていつも通り振舞ったつもりだったけれど、旭先輩も気にしているのかお互いどこかぎこちなかった。
そのことを思い出して、私の顔は少し曇ってしまったかもしれない。
けれど菅原先輩はそれ以上は詮索してこずに、じゃあまた今度な、と言ってその場から立ち去って行った。
「…菅原も、お節介だよね」
「あはは…。でもそのおかげで色々助かってます」
菅原先輩が気を回してくれるおかげで、旭先輩と仲良くなっているところはあったし、たまにこうやって核心に触れてきてドキッとすることはあるけれど、それが嫌だとは思わない。
「…さて。みんな帰ったみたいだし、行こっか」
澤村先輩の肉まんにつられて部員達が足早に帰って行ったおかげで、すでにあたりに人影は見当たらなかった。
私と潔子先輩は倉庫に眠る横断幕を外に引っ張り出した。
埃をかぶってしまっている大きな黒い塊は、動かすたびに白い煙をあげた。