第15章 応援のカタチ(中編)
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東峰side
「…じゃあ、また明日」
今日は、少しぎこちない別れの挨拶になってしまった。
黒崎もいつもより元気のない返事をよこして、家の中へ入って行った。
俺の、せいだ。
黒崎との間に微妙な空気が流れてしまったのは、自分のせい。それはよく分かっている。
「なんであんな風な言い方しちゃったんだろ……」
話の途中で、電話が鳴って。
画面を覗き込んだ黒崎がその瞬間、くるりと背を向けた、あの時から嫌な予感はしていた。
なんで、背を向けるのかな、って思った。
俺に話を聞かれたくないのかな、って思った。
電話の相手に、誰と帰っているのか問われたのだろう、黒崎は俺の名前を電話の相手に伝えていた。
けれどその時黒崎はどこか歯切れが悪い感じで。
言いにくそうに俺の名を口にしていた。
それがひどく、悲しく思えた。
自信をもってというのも変かもしれないけれど、あんな風に言いづらそうに俺の名を口にしなくてもいいのになって思った。
電話を終えた黒崎に電話の相手を尋ねれば、嫌な予感は大当たりだった。
あの音駒の。あのリベロの。黒崎と幼馴染だという、夜久だった。
『衛輔くんからでした』
黒崎の口が形どった、夜久の名前。
一音、一音が、ひどく耳に残っている。
烏野の中では、黒崎が下の名前で呼ぶのは俺だけで。
始めは、苗字と間違えて「旭先輩」って俺の事を呼んでいたんだよな。
それが名前だと分かった後、黒崎は「東峰先輩」と呼び直したんだっけ。
でも普段部活の連中には「旭」って呼ばれることが多かったし、黒崎みたいな一年生の女子に名前で呼ばれることってそうないことだからなんかもったいない気がして、名前で呼んでいいよ、って俺が言ったんだ。
『じゃあ、旭先輩、で』
改めて黒崎に名前を呼ばれて、なんだか気恥ずかしくなって。
向こうも同じだったのか、少し恥ずかしそうにしていたっけ。
黒崎と出会ったばかりの頃を思い返して、ついこの間のことなのにそれがひどく懐かしく感じた。
懐かしく思えるくらい、黒崎とは濃い時間を過ごしているような気がする。
まだ短い付き合いだけれど、不思議とそんな気がしないんだ。