第14章 応援のカタチ(前編)
『美咲ちゃんのことを恋愛対象として見てはいない』と自分に言い聞かせてみても、心の奥底からは、『それは違う』という思いが湧き上がってくるのだ。
確かに、俺の初恋は美咲ちゃんだった。
でもその初恋は思いを告げることなく終わったものだと思っていた。
中学とか高校に入ってからも、可愛いなと思う子はいたし、付き合いたいなと思う子だっていた。
それなのに、数年ぶりに美咲ちゃんに会ったら、気持ちはあの頃のものに一気に戻ってしまったんだ。
『やくのおにいちゃん』
あの懐かしい呼び名が、美咲ちゃんの口からこぼれたあの瞬間から。
突然目の前から姿を消した美咲ちゃんとの、奇跡的な再会。
偶然だと片付けてしまうには、あまりにも運命的な再会すぎて、普段神様なんて信じてない俺でも、これは神様の思し召しなんじゃないかって思った。
もう二度と美咲ちゃんとの縁が切れないように、毎日何かしら理由をつけて連絡取って。
理由つけてたまには電話しようって約束して。
美咲ちゃんが、俺のことを『やくのおにいちゃん』としか見てないのは何となく、分かってる。
だけど、今度こそ。
何も思いを伝えられなかった幼い頃とは違う。
思いを伝えるすべも、その為に必要な駆け引きも、今の自分は手にしているのだから。
たとえ今は『やくのおにいちゃん』でもいい。
いつか『おにいちゃん』を卒業して、『夜久衛輔』という1人の男として彼女に見てもらえたら。
その為には、たとえ黒尾にからかわれようが何しようが、何だって出来るような気がしていた。