第14章 応援のカタチ(前編)
『おう分かった。んじゃあ、また明日連絡するわ。ちゃんと布団きて寝ろよ』
「…子供じゃないんだから、ちゃんときるよ」
『どうだかなー?美咲ちゃんすっげぇ寝相悪かったし』
衛輔くんの言葉に、幼い頃の記憶が蘇る。
布団を隣に並べて衛輔くんと眠っていたあの頃。
朝起きるといつも「また昨日蹴ってきたよ」と言われていたことを思い出す。
それに「ごめんね」と返すのが日課のようになっていた。
「蹴ってきた」と欠かさず報告をするわりに、衛輔くんは必ず「美咲ちゃんなら許す」と笑って答えてくれていた。
「…もう、いつの話してるの」
『あはは、ごめんごめん。……あのさ、美咲ちゃん』
「うん?なに?」
それまで明るく笑っていた衛輔くんの声のトーンが、一段低くなった気がした。
何を言われるのか予測がつかなくて少しドキッとする。
『たまに、こうやって電話しない?ラインの方がやり取りは簡単だけど、やっぱ声聞けると安心すんだわ。ちゃんと元気だな、って』
「うん、いいよ。……衛輔くんって、心配症で世話焼きだよね、昔っから」
家族みたいに一緒に育ってきたからか、衛輔くんは本当のお兄ちゃんみたいで。
血の繋がりのある兄より、兄らしい存在だった。
実際の兄は、衛輔くんほどあれこれ世話を焼いてはくれないから、余計にそう思うのかもしれない。
『そっかぁ?……美咲ちゃんだけに、特別だと思うけど』
「そう?この間の練習試合の時も、後輩の面倒しっかり見てたし。やっぱり世話焼きなとこ、あると思うよ?」
『…ま、そう言われるとそうかもな?』
衛輔くんの声は何か言いたげな感じだったけれど、それ以上その話について衛輔くんが触れることは無かった。
また明日連絡する、と言って、衛輔くんは電話を切った。
衛輔くんとの通話を終えて、一息つく。
思ったような答えは得られなかったけれど、また明日衛輔くんからの連絡を待つしかない。
私はひとまず目の前に鎮座している課題を片付けようと、教科書とノートを開いた。