第2章 オリエンテーション
「別にええねんけど…どうしたん?」
ドライヤーを止めて章ちゃんがわたしの様子を伺う。
「ふわふわなびいてんの見たら触りたくなっちゃって…」
「ふぅ〜ん?あ、なんか新鮮!」
「うん?」
「しーちゃんがスウェット着てんの初めて見た気ぃする!!ぶかぶかで可愛ええなあ!上も着たんやね!なんかおれとお揃いみたいやん」
ふふふ!って笑う章ちゃんを見れなくなった。
可愛ええって!
可愛ええって言われた!!
上下でスウェットを貰ったから上も着てみたんだけど、
章ちゃんが大きめを買ったみたいで、わたしにもぶかぶかで袖から手が出ないくらいだった。
「パジャマなら見慣れててんけど、スウェットは初めてやんな!」
「う、うん……パジャマ見慣れられてるのもなんだか、ね?」
「ははっ、せやなぁ~。めっちゃぶかぶかなんとちゃう、これ?」
そう言って章ちゃんがわたしの袖をつかみ、手を引き出した。
「腕短いんやない?」
にかっ!と笑いながら失礼なことを言う。
その笑い方もずるい。
「章ちゃんだってそんなに変わらないでしょ」
お返しに章ちゃんの腕も引き出すと、章ちゃんの動きがピタリと止まって目を丸くした……なんで?
「章ちゃん?」
「んっ?あ、…ほな髪乾かし終わったし、ドラマ観よか!」
「うん…?」
どうしたんだろう?と思いながらも、ドライヤーしてたからまだ頭がボーッとしてただけかな、と思い直して、ソファに座り直した。
その横に、ドライヤーのコンセントを抜き片付けた章ちゃんも並んで座った。
「何話かたまってるけど、DVDに落とす?」
「うーん…落とすほどではないかな……」
今観ているドラマは恋愛もので、わたしの、数少ない好きな女優さんが出てるもの。
恋愛ものだけど、章ちゃんも一緒に観る。
「……」
「……」
章ちゃんの家のテレビだし、録ってるデッキだって章ちゃんの家のもの。だから章ちゃんが観ることはなんらおかしくないし、観る気がなくても必然、観ることになってしまうわけで。
そして恋愛ものってなれば、キスシーン……とかもあるわけで……
今、まさにキスシーンなわけだけど。