第2章 オリエンテーション
「仲良うなるチャンスの方。おれ別にクラスの子らと仲良うなりたいわけとちゃうし」
おれはしーちゃんがおればええし。
ちらりとしーちゃんの方を見ると少しだけビクッと跳ねた。
横「ほんま安は緋刈さんがおればええんやなぁ」
微かに聞こえたよこちょの声に目を向けると、こっちからは見えへんけど、よこちょが「やべ、」みたいな顔したってことは、今は後頭部しか見えへん兎希ちゃんが視線で咎めたかなんかしたってことかな。
しーちゃんには聞こえてへんやろか、と横を見ると、すでにタオルを頭から顔にかけ、寝る体勢になっていた。
……聞こえて…へんよな?
聞こえてへんとええけど、この状態を起こして確認するのもアレやし、触れんどこ。
────もしかしたら、「話しかけんといて」の意思表示かもしれへんしな…。
なんや今の状況が面白なくて、寂しくて、もどかしくて。
小さく溜息が出た。
*******
バスの中ではほぼずっと寝てた。
ときどき、喉が渇いたりとか、高速道路の途中でのトイレ休憩とかで起きたりもしたけど、それ以外はずっと。
気まずさもあったけど、そんなに気にしなくていいだろうに。
なんかだんだん、意地を張ってるような感じになってきてる。
ただ単に、名前の呼び方にモヤッとしただけなのに…。
「しーちゃん」
「…えっ、あ、何?」
ボーッとしていたのは明らかな返事になっちゃった。
もう学校についていて、解散式を終えたとこだった。
「クラスの集合場所に行かなやで」
章ちゃんの声に振り返ると、兎希たちが少し先で止まってこっちを見ていた。
「あ、ごめん」
脇にあった自分の荷物を持とうとすると、大きい重たい方の荷物が勝手に動いた。
「?」
「行こ」
荷物はもちろん勝手に動いたわけじゃなく、章ちゃんが持ってくれていた。
「あ、ありがと…でも持てるから…」
「ええから」
章ちゃんが軽く笑った。
少しいつもよりぎこちなく感じたけど、そう見えたのももしかしたらわたしの自分の気持ちのせいかもしれない。
わたしが勝手に、気まずくなってるだけ。
「ありがと」
もう1度お礼を言ったけど、小さくて聞こえなかったかもしれない