第2章 オリエンテーション
兎希「んー…どうしよっか」
先に兎希が進んでいて、少しこっちを振り返るように兎希がボソリと言った。
その顔は心底めんどくさい時の顔だ。
まぁ…いざこざが嫌いなわたしたちがとる選択肢は『違う席に座る』だろうな。
────章ちゃんの隣じゃない。
少しだけ、ホッとしたような、やっぱり残念なような。
朝のちょっとの気まずさが尾を引いてる。
「あそこ、座ろっか。問題あったら先生が言うでしょ」
善は急げ、とは違うけどいつまでも通路に立ってても仕方ない。提案すると「うん」と兎希がすぐに頷いた。
その女子たちが座るはずであった席に座ろうとしたら、よく通る声が聞こえた。
「班長がどこ行くねん」
見ると、渋谷くんがこっちを少し睨んでいた。
『こっち』と言ってもわたしより兎希の方を見てる気がする。
そのことに兎希も気付いたようで、「や、あの、」と言い淀んだ。
渋「自分ら席戻れや」
よく通る声が故にその声は耳に届きやすい。大声でもないのに有無を言わせないその言葉にスゴスゴと女の子たちは席に戻って行った。
戻る時、軽く睨まれた気もするけど。
その気まずさの中、わたしたちまで怒られたかのように覇気なく奪われていた席に座った。
行きと同じ、窓側の席に座るとすぐ章ちゃんが隣に座った。
安「………」
「………」
いつもは何ともない少しの沈黙も気になる。
別にここでなにか話さなきゃいけないわけでもないのに。
わたしとは反対側の席の方、横山くんの方から話が聞こえた。
横「は〜~すばる、もったいないことしたなぁ」
渋「何が」
横「クラスの子と仲良うなるチャンスやったやん!もう兎村はええやろ。もう仲ええやん、兎村とは」
横山くん、それは…言ってはいけないというか…いや、確かに2人とも、知り合ってばっかりに近いのに何か仲良いように見えるけど…仲良いってのとは違うような気もするけど…
安「そう思ってたんはよこちょだけやわぁ」
横「え?どっちが?すばると兎村はもう仲ええってこと?クラスの子と仲良うなるチャンスのこと?」