第2章 オリエンテーション
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しーちゃんを待ってる間に同じクラスの女子が話しかけてきた。
別にしーちゃん以外の女子と喋りたない訳とちゃうくて、
しーちゃんがおればしーちゃんを優先するし、おらんやったら他の女子とも喋る。
優先順位がしーちゃんなだけ。
他の女子と喋る必要性を感じひんだけ。
「だからね、他の子たちとも話してたんやけど、安田くんたちの班になりたかったねーって!」
「あ〜そうなんや〜でもおれら同じ中学やったり前から友達やったりで、他の人らやったら今みたいな感じにはならんのとちゃうかなぁ」
やって君、よこちょとは心配ないかも知らんけど、しぶやんには絶対気に入られへんで。
そんなことまでは直接は言わへんけどね?
笑顔で相槌打ったり流したりしてるとしーちゃんが立ってるのが見えた。
「あ、しーちゃん」
なんで近づいて来おへんねやろ??
おれが呼ぶと、ハッとした顔を一瞬して、少しぎこちない動きでしーちゃんが近づいてきた。
「…安田くん、ごめん、待たせて…」
絞り出すように聞かされた言葉に脳みそ、ぐちゃぐちゃにされたような気持ちになった。
何、『安田くん』て。
なんで『章ちゃん』やないん。
じゃあね、と喋ってた女子がそそくさといなくなった。
おらんようなってからすぐにしーちゃんに聞いた。
「どうしたん…?安田くん、て」
俯くしーちゃんの顔を見ようと少し屈むようにして覗き込むとしーちゃんが後ろに身体を反らした。
─────この距離、あかんかったかな……
その反応に心臓が痛む気がした。
「あ、うん……あの、他の子もいたし…高校生になっても『章ちゃん』ておかしいかなって…」
その言い方に痛んだ心臓が、心が、ささくれた気がした。
「おかしいかなぁ…おれもおかしいんかな、じゃあ。しーちゃんって呼ばんがええ?」
言った後に、『あ、今の言い方、ちょっときつかったんとちゃうか』と思った。
けど、おれの言葉を受けて、しーちゃんが慌てたように、
「う、ううん、章ちゃん、が呼びやすいならいいの」
と言った。
ちゃうよ
呼びやすい呼びにくいとかちゃうねんて。
おれだけ特別なんやって周りに思わせるためなんやって。
しーちゃん…