第2章 オリエンテーション
気づくとしーちゃんが自分のほっぺたをぶにぶにと動かしていた。その動きだけでもやあらかそうなんが分かる。
周りの女子がおれとしーちゃんの関係性を見極めようとしてんのも分かった。うざったいねん、そういうの。
おれはしーちゃんしか見てへんぞっていう意思を表すつもりで、しーちゃんのほっぺたを今度はおれがつまんだ。それを見て周りの女子が息を飲んだのがわかったし、睨んでるような目つきも気づいた。けどおれにはどうでもええ。この行動でおれとしーちゃんの間には入れへんことを思い知ったらええねん。
しーちゃんとの時間を、空気を、邪魔すんなや。
けど、おれは他にも気付いてしもうた。
前はこんな風にしーちゃんのほっぺたを触ってると、「やめてよ」と言いながらも笑って、おれの手を掴んだりしていたしーちゃんが今は困ったように眉を下げてた。
______その顔は、何?
______その表情の真意は何やねん…?
拒否なんか?
ほんまに痛かったんか?
笑いながらしーちゃんのほっぺたから手を離した。笑ったつもりやったけどちゃんと笑えてたやろか____
あかんな…
ここ最近というか、何年というか…時々ちゃんと笑えてるか?笑えてたか?ていう不安が湧いてくる。
自分でも『何やねん、それ』て思う。
ちゃんと笑えてる笑えてないて、何やねん。
なんでそんなこと、しーちゃん相手に考えなあかんねん。
しーちゃんは愛想笑いするような相手とちゃうやろ______
先生達の仲良さを見て、おれとしーちゃんのことを考えた。
おれ達は先生達の歳の時、どういう関係になってんだろうって。
今の関係に進展はあるんやろか、それともそれぞれの道を歩んで、なかなか会わなくなったりするんやろか。そんなん嫌や。
ずっと、ずっと、しーちゃんの隣におりたい_______
しーちゃんは先生達の仲良さを見て、どう思ったんやろ?
兎希ちゃんとのことを考えたやろか?
それとも、おれみたいに幼馴染みのことを、考えてくれたやろか?
例え、しーちゃんが考えた相手が幼馴染みとしてのおれでも、しーちゃんがおれのことを考えてくれてたってことがおれにとっては大事やねん…。