第2章 オリエンテーション
自分のほっぺをぶにぶにとしながら、渋谷くんのムスっと顔を思い出した。
髪ゴムの時といい、歌声に聴き惚れてると兎希に言われた時といい…よく顔に出る人だな、と思う。そこは章ちゃんと似てる。
似てるけど、でも章ちゃんは表情や言葉で人を傷つける人じゃないから、やっぱり似てないな、とも思う。
安「さっきから何してんのん?」
ふふ、と笑いながら、女の子に囲まれてた章ちゃんが隣に来た。
「顔ほぐしてる」
いつまでもしてたら赤くなると思って手を離すと、今度は章ちゃんの手がわたしのほっぺを掴んだ。
「?!」
安「ほぐさんでもしーちゃんのほっぺはやあらかいで~?」
ぶにぃ、ぶにぃ、と優しくつままれてる。
他の女の子の視線が痛いほど突き刺さる。この視線に章ちゃんは気付かないの???章ちゃん、わたしのこと、『にぶちん』て言うけど、章ちゃんもにぶちんじゃないかな…?
「やぁらかくするためにほぐしてるんじゃないの」
昔だったら「やめて」って章ちゃんの手を掴んで引っぺがしたり触れてたんだろうけど、章ちゃんのことが好きなんだとわかったときから軽々しく章ちゃんに触れなくなった。
なんて言ったらいいかわかんないけど、触っちゃいけないような気がして。
だから今、どう離してもらえばいいのか……ただ「やめて」って口だけで言ったら態度悪いんじゃないかとか。
悩んだ末、「痛いよう」と言うと章ちゃんは「ははっ」と笑って「ごめんごめん」と言って離してくれた。離してもらっても尚、周りの女子の視線は無くならなかったけど。
三「あ、大事なの忘れてた!今日オレンジジュースとかも出るから!」
「なんでですか?」
三「なんでって…嬉しくないのお?」
「や、嬉しいですけど…」
三「でしょでしょ?俺が頼んでおいたんだぁ〜『練習で疲れてるだろうしお疲れ様でしたってことでだめですかー?』って!良い先生じゃない?」
へへ!と三宅先生が鼻の頭を掻きながら笑った。
自分で言っちゃうんだ…
坂「自分でそれ言うなよ、健。あとお前自身飲みたかったってのも大きいだろ」
三宅先生の後ろから坂本先生が現れて、持ってた薄いファイルを三宅先生の背中に軽く、ポンと当てた。