第2章 オリエンテーション
シワを深めた割には不機嫌になったというよりも、照れ隠しのようにも見える。
けど兎希はそうは思わなかったのか本気で焦って弁解してた。
多分違うよ、と思って笑いそうになるんだけど笑っちゃダメだろうと思って口を覆った。周りを盗み見ると、わたしだけじゃなく横山くんも章ちゃんも笑ってた。
兎希も渋谷くんも周りの様子に気づいたらしく、兎希は恥ずかしがって俯いて、渋谷くんは「…ほんまなんやねん…」と言って結局髪ゴムを取って兎希に突き返していた。
「ねね、あれ、別に渋谷くん、怒ってたわけじゃないよね?」
朝食のあとの集団行動練習の前に密かに章ちゃんに声をかけた。
安「おん、ちょっと戸惑っただけとちゃうか〜?」
「やっぱり!」
思わずパチン、と両手を合わした。章ちゃんが怪訝な顔をした。
安「なして渋やん?」
「ん?」
安「や、なして渋やんの態度?気になってるんかな~って思って」
「いやぁ…兎希が気にしてそうだったからね」
ほら、と兎希を指さした。
安「あー…おん…気にしてそうやんな」
指さした先の兎希は眉が下がって手を前に組んでいた。兎希は眉が下がりやすい。
安「でも渋やん、分かりづらいってよう言われてるのになして分かったん?」
「んーーーなんとなく?」
これまでに培った人間観察力かも。
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集団行動の練習が終わると、昼食時間。
昼食時間はまさかの訪問者が…。
村「兎村ー!」
と誰よりも大きな声と共にやってきた村上くんに続いて、話には聞いていた丸山くんも現れた。
部活のことと丸山くんの話は聞いてたけど、会うのは今日が初めて。でも村上くんも軽音入るのは兎希も初耳だったらしい。
ドラミングて…
ゴリラ扱いがすごい。
でもほんとにあの村上くんがなんで……村上くんと言えばサッカー。そのイメージが強くて、すごくびっくりした。
でもそこを聞く前に話題が少し変わっちゃって入り込めなかった。
…また章ちゃんに聞いてみよっかな。
そんな風にことあるごとに章ちゃんと話す話題を探してる自分がいる。話題なんてなくても気まずくないけど、何かしらきっかけを探してる。そうしてないと、何かがなくなりそうで。