第2章 オリエンテーション
その後の下りでわかったのは…。
『雫!すたこら行かんの!』
…わたしは下りが速いということだった。
のぼりと違って、筋肉をあまり使わない感じが気に入ったのか、わたしはポンポン、と駆けてた。
『負けてられへん!』
うしろでそんな叫び声にも似たような決意の声が聞こえると、お父さんの、『あっ!こらー!』という困り気味の声も聞こえた。
あっという間に、章ちゃんも隣に来ていた。
それに気づいて、章ちゃんの方を見ようと、足元から視線を外した時。
『あっ』
ぐらり、とバランスを崩した。
次の瞬間には、べしゃり、という音がしていた。
『いってえ〜!!』
転けたのはわたしのはずなのに、章ちゃんの痛がる声がした。
不思議に思って見ると、わたしを支えようとしてくれたのか、わたしよりも先に章ちゃんが転けて、その上にかぶさるようにわたしが転けていた。
両親に心配され、アンタがポンポン行っちゃうからでしょ、と怒られ。
でも、その後に、『あぶないから、手ぇ、つないでこ?』そう言って、章ちゃんが手を差し出してくれた。
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「一緒にこけたの、あれが最初で最後かな?」
今も隣に居てくれる章ちゃんに聞いた。
「せやんなぁ~…。おれ、軽く落ち込んでたんやで、アレ。」
章ちゃんが眉をハの字にして、苦笑いをした。
「えっ、なんで?」
「なんでって…そりゃあ、一緒に転けたからやろ。しーちゃんがこけへんように、支えよう思ったんに…。」
軽く頭をかいて、恥ずかしそうに章ちゃんが笑った。
…昔から、章ちゃんに迷惑をかけてばっかだったんだなぁ…。