第2章 オリエンテーション
『しょー、ちゃん、まってー…』
あの時もわたしは登りがとてつもなーーーーーーく遅かった。
それに比べ、章ちゃんは『おサルさんかな?』って思うくらいサッサ登っちゃって。
章ちゃんについてたお父さんが『章くんははやいなぁ』って笑いながらあとを追いかけていた。
『雫、ゆっくりでええんやで』
わたしについてくれていたお母さんがそう言ってくれた。
でもわたしはそれが嫌だった。
自分はできない子のようで。
わたしが頑張っても人並みにはなれないと言われているようで。
多分、その当時はなんで嫌だったのかなんてわかってなかったと思う。
ただ、感覚的に『嫌だ』って思ってた。
『だってしょうちゃん、先行っちゃう』
半べそかきながら、あまり大きな声で言った覚えはないのに、どこから聞きつけてきたのか、前を行っていたはずの章ちゃんが戻ってきた。
『しーちゃん!むこうにな、川、ながれてんで!』
一緒に行こう、と章ちゃんが手を握ってくれた時、本当にすごく嬉しかった。
章ちゃんが先に行っちゃう度に寂しくなっていた心が一気に明るくなった気がした。
章ちゃんが言っていた川で少し遊んで。
そこを通り過ぎると、今度は滝があって。
やーっと頂上に着いた頃にはヘトヘトになってて。
でも章ちゃんはずっとにこにこして元気だった。
『なんでそんなに元気なの?』
『楽しみにしててんもん!』
お父さんとお母さんが一緒に来れなかったのに、それでも楽しいと言える章ちゃんを不思議に思った。
けど…章ちゃんの中では違ったらしい。
『しーちゃんと初めてのやまのぼり、楽しい!!』
ほかの誰でもなく、わたしと。
それがすごく嬉しかったの。
だからわたしも、
『わたしもしょうちゃんと楽しい…』
思わず、少し変な言葉の繋ぎ方をしてしまった。
けど、ちゃんと伝わったようで、
ふたりで笑いあっていた。